VARが介入できる場面は、競技規則の条文にはっきり4つしか書かれていません。多くの説明ではそこが曖昧です。日本サッカー協会が公開しているサッカー競技規則2025/26の条文と、Jリーグ公式の発表を頼りに、VARとゴールラインテクノロジー(GLT)が実際に何を、どこまで決めているのかを追っていきます。
VARが介入できるのは、この4つの場面だけです
| 介入できる場面(条文の文言) | よくある誤解 |
|---|---|
| 得点か得点でないか | オフサイドはここに含まれる。「オフサイド」という独立したカテゴリーは条文に無い |
| ペナルティーキックかペナルティーキックでないか | ファウルなら何でも見られる、ではない |
| 退場(2つ目の警告によるものではない) | 2枚目のイエローカードによる退場は対象外 |
| 主審が、反則を行ったチームの別の競技者に警告する、または退場を命じる | いわゆる人違い。ここを「オフサイド」と書いている記事が多い |
こんな説明を見たことはないでしょうか。
VARは、主審の判定をビデオ映像で確認し、誤審を防ぐことを目的とした技術です。オフサイド、PK、レッドカード、得点の4つの場面で使用されます。
「4つ」という数だけが合っていて、中身が3か所ずれています。
- 「オフサイド」は独立したカテゴリーではありません。得点かどうかを判断する中で見ます。
- 4つ目は「オフサイド」ではなく、人違いです。主審が、反則をした選手ではない別の選手にカードを出してしまった場合のことです。
- 「レッドカード」ではなく「退場(2つ目の警告によるものではない)」です。イエロー2枚での退場は、VARの対象になりません。
数を数えただけでは、この間違いに気づけません。箇条書きの事実は、条文と1項目ずつ突き合わせる必要があります。
そして、この4つに当てはまっても、いつでも介入するわけではありません。条文は介入の条件をこう限定しています。
主審は、次に関する「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」の状況に限り、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)から援助を得ることができる。
VARは「誤審を防ぐ技術」ではない
「誤審を防ぐことを目的とした技術です」という説明はよく見かけますが、こちらのほうが本質的なずれです。
競技規則は、そうは書いていません。第5条4は、介入を「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」に限ったうえで、さらにこう念を押しています。
「見逃された重大な事象」を除き、主審(および、関連する「フィールドにいる」その他の審判員)は、常に判定を下さなければならない(反則の可能性があったが罰則を与えなかった場合の判断を含む)。判定は、「はっきりとした、明白な間違い」でない限り、変更することができない。
つまり、微妙な判定は、VARがあっても覆りません。覆せないと条文に書いてあるからです。
Jリーグ公式の解説も、同じことを別の言葉で書いています。Jリーグの「VARとは?」のページは、「VARは、対象となる事象における主審の『はっきりとした、明白な間違い』を正す援助をするものであり、最良の判定を見つけるものではない」と明記し、さらに「判定に対する意見が半々に別れるような場合においてはVARは介入しません」と書いています。目的についても「最小限の干渉で最大の利益を得る」と説明されています。
「なぜあの判定はVARで覆らなかったのか」という、試合を見ていていちばん納得できない部分は、この2文で説明がつきます。VARは正解を探す装置ではなく、明白な間違いだけを取り除く装置だからです。ルールを出せば、感情論をはさまずに説明できます。これは、礼儀やスポーツマンシップを規則から説明した記事と同じやり方です。
VOR と RRA:「入ったらカード」まで規則で決まっている
VARの話は判定の話に偏りがちですが、設備の側も競技規則が定めています。第1条14(ビデオアシスタントレフェリー)です。
VARが使用される試合では、ビデオオペレーションルーム(VOR)と、少なくとも1か所のレフェリーレビューエリア(RRA)を設置しなければなりません。VORは、VAR・アシスタントVAR(AVAR)・リプレーオペレーター(RO)が作業する部屋で、スタジアム内でも、近接の場所でも、遠隔地でもかまいません。RRAは、主審が自分で映像を見る(オンフィールドレビュー=OFR)ための場所で、競技のフィールド外で目に見える場所に、はっきりとマークをつけて設置します。
条文にはこう書かれています。
- 競技者、交代要員、交代して退いた競技者またはチーム役員がVORに入室した場合、退場が命じられる。
- 競技者、交代要員、交代して退いた競技者またはチーム役員がRRAに入った場合、警告される。
映像を見る部屋に入ったら一発退場、主審がレビューする区画に入ったら警告。ここまで書いてある規則は、条文を開かないと出てきません。
プレーが再開された後は、何が見られるのか
もう1つ、知っていると試合の見え方が変わる条文があります。第5条4の「プレーが再開された後のレビュー」です。
プレーが停止後に再開されてしまった場合、主審は、人間違いの場合、もしくは乱暴な行為、つば吐き、かみつき、または非常に攻撃的な、侮辱的な、下品な行動といった退場を命じる可能性のある反則のみをレビューし、適切な懲戒の罰則を与えることができる。
再開されてしまったら、もう得点の取り消しはできません。残るのは、人違いの訂正と、退場相当の重い反則の処分だけです。だから、VARのチェック中は主審が再開を遅らせます。あれは慎重に考えているというより、再開してしまうと戻せなくなるからです。
ゴールラインテクノロジー(GLT)は何をする装置か
「センサーとカメラでボールの位置を把握する」という説明もよく見ますが、間違いではないものの、条文のほうがずっと具体的です。第1条11(ゴールラインテクノロジー)にはこう書かれています。
GLTは、ゴールラインにのみ適用され、得点があったかどうかの決定にのみ用いられる。
得点があったかどうかは、GLTシステムによって瞬時になされ、自動的に1秒以内に、(主審の時計の振動および視覚的シグナル、または主審のイヤホン/ヘッドセットを介して)審判員にのみ伝えられなければならないが、ビデオオペレーションルーム(VOR)にも送信することができる。
条文からは、次の5つが分かります。
- 用途は1つだけ。ゴールラインにのみ適用され、得点の有無だけを決めます。オフサイドもファウルも見ません。
- 1秒以内。しかも主審の時計が振動するという物理的な伝え方まで条文に書かれています。
- 審判員にのみ伝えられる。スタジアムの大型ビジョンにまず出る、という仕組みではありません。
- 使うかどうかは競技会が決める。条文は「GLTの使用について、競技会規定に明記されなければならない」としています。
- 主審に試合前のテスト義務がある。「テストマニュアルに従って、この技術の機能をテストする義務がある」「その技術がテストマニュアルに沿って、機能しない場合、主審はGLTシステムを用いてはならず、この事実を各関係機関に報告しなければならない」
なぜJリーグにゴールラインテクノロジーが無いのか
ここは、いちばん多く検索でたどり着かれている疑問です。答えは、規則の側と、Jリーグの側の両方にあります。
規則の側から見ると、答えは単純です。GLTは「競技会規定に明記されなければならない」ものなので、導入するかどうかは競技会の選択です。使わないことがルール違反になるわけではありません。
では、Jリーグはなぜ選ばなかったのか。これについては、Jリーグ自身が公式サイトで理由を述べています。2023年2月27日に公開された理事会後会見の発言録で、開幕節の判定について問われた野々村チェアマンが、こう答えています。
例えば今回の件を解決するためにはゴールラインテクノロジーを導入するのが一つの方法だと思いますが、ざっくりですが導入するのに機材等を含めただけでも10億円ぐらいかかります。かつ、日本のJ1のスタジアムでゴールラインテクノロジーを導入することができるスタジアムがすべてではありません。できないスタジアムもあります。例えばスタジアムの高さや、ゴールラインのところにカメラを置くスペースがない状況もあります。
理由は2つ挙げられています。費用と、スタジアムの物理的な条件です。同じ会見で、「J2にVARを入れようとしても、億以上かかります」という発言と、「今季のJ3からコミュニケーションシステムを導入します。これまでJ3はなかったのですが、1,500万〜2,000万円ぐらいかかる費用をJリーグが負担します」という発言も記録されています。できるところから順に入れている、という話です。
Jリーグ公式サイトに、GLT導入の告知はいまのところありません。ただし上の発言は2023年2月のものなので、最新の状況はJリーグ公式サイトで確認してください。
VARのほうは、Jリーグでどう入っているのか
GLTと違い、VARは導入されています。Jリーグ公式の解説によれば、経緯はこうです。
VARは2016年にアメリカの下部リーグで試験導入され、同年9月のイタリア代表対フランス代表で国際試合に、同年12月のFIFAクラブワールドカップ2016で公式戦に初めて使われました。2017-18シーズンからブンデスリーガとセリエAで正式運用が始まり、ワールドカップでは2018年ロシア大会が最初です。
Jリーグでは2019年のJリーグYBCルヴァンカップ プライムステージで初めて採用され(2019年9月4日の準々決勝)、リーグ戦は2020年の明治安田生命J1リーグで導入。ただしこの年は新型コロナウイルス感染症の影響で開幕戦のみの採用となり、1シーズンを通じた運用は2021年シーズンからです。
導入する試合の範囲も公表されています。2022年9月27日の発表では、2023シーズン以降のVAR導入試合として、スーパーカップ1試合/J1リーグ戦306試合/リーグカップ戦ノックアウトステージ13試合/J1参入プレーオフ決定戦1試合が挙げられ、あわせてオフサイドラインを2Dから3Dにすること、オフサイドライン投影カメラを2台から5台に増やすことも決定されています。その後も範囲は広がっており、2025年10月16日の発表では、J1昇格プレーオフ準決勝の2試合でVARを導入することが決まりました(準決勝での導入は初めて)。
VARとGLTは、そもそも別の道具です
この2つは混同されがちですが、設計思想からして違います。次の表で並べます。
| ゴールラインテクノロジー(GLT) | ビデオアシスタントレフェリー(VAR) | |
|---|---|---|
| 判断するもの | 得点の有無だけ | 得点/PK/退場/人違いの4つ |
| 誰が判断するか | 自動(システム) | 人(VARが助言し、最終判定は主審) |
| 速さ | 1秒以内 | チェックとレビューの時間がかかる |
| 介入の条件 | 条件なし(ラインを越えたかどうかは事実) | 「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」に限る |
| 伝わる先 | 審判員にのみ(VORにも送信可) | 主審(必要ならRRAで自ら映像を見る) |
| Jリーグ | 導入の告知は確認できず | 導入済み(通年運用は2021年シーズンから) |
GLTが速いのは、判断する対象が「ボールがラインを越えたかどうか」という、答えが1つしかない事実だからです。VARが遅く、しかも滅多に覆さないのは、扱っているのが「反則だったかどうか」という、人によって割れる判断だからです。だから条文は、割れる判断には手を出さないと決めています。
競技規則を出典にして書いた記事は、ほかにもあります。得点と記録の扱いはオウンゴールの判定基準(第10条)、交代とハーフタイムはハーフタイムの規定(第7条)、PK戦の手続きはPK戦で決着した試合の記事(第10条)、ポジションという概念が規則に無いという話はポジション転向の記事(第3条)、責任とチームプレーは子どもの育成の記事にまとめています。いずれも、日本サッカー協会が公開しているサッカー競技規則2025/26の条文を出典にしています。
