子どものサッカーでのスポーツマンシップと礼儀作法の教育

子どもの試合のベンチや保護者席に立つたびに気づくのは、頭ごなしの「行儀よくしなさい」では子どもに何も残らないということです。子どものサッカーの「礼儀」は、心構えではなく行動で覚えたほうが早く身につきます。しかもその一部は競技規則で決まっていて、守らなければ警告(イエローカード)の対象です。場面ごとに「何をするか」を一覧にし、そのうちどこまでが規則で、どこからが慣習なのかを線引きします(2026年8月24日更新)。 「相手・審判に対する態度」を扱います。味方との関係(協調性・責任感)はこちらの記事にまとめました。2本セットで読むと、子どものサッカーで大人が見るべき点がひととおりそろいます。
場面やること規則で決まっていること根拠
試合前あいさつ、握手、用具の確認用具の安全は規則で定められている(第4条)競技規則2025/26
判定に納得できないときいったん受け入れて、次のプレーに戻る★「言葉または行動により異議を示す」は警告の対象第12条
相手が倒れたとき審判の判断を待つ。自己判断で止めない軽傷ならプレー続行、重傷なら主審が停止する第5条
ファウルをもらいたいとき倒れたふりをしない★シミュレーションは反スポーツ的行為=警告第12条
勝ったとき相手と審判に礼をしてから喜ぶ規則には無い(慣習)(確認先なし)
負けたとき最後まで戦い、終わったら相手をたたえる規則には無い(慣習)(確認先なし)
保護者・指導者判定に抗議しない。良いプレーは相手にも拍手★チーム役員も警告・退場の対象第1条・第5条
先に結論です。「礼儀を守りなさい」と言うより、「これは規則で決まっている」と言ったほうが、子どもには圧倒的に伝わります。なぜなら理由が具体的だからです。順に見ていきます。

サッカーの「礼儀」は、どこまでが規則で、どこからが慣習か

ここを分けないまま「マナーを守ろう」と言っても、子どもは何が絶対で何がお願いなのか判断できません。まず線を引きます。 【規則で決まっていること】まず、サッカー競技規則2025/26の第12条は、競技者が警告される場合として次を挙げています。
  • プレーの再開を遅らせる。
  • ★言葉または行動により異議を示す。
  • 主審の承認を得ず、競技のフィールドに入る、復帰する、または意図的に競技のフィールドから離れる。
  • ドロップボール、コーナーキック、フリーキックまたはスローインでプレーが再開されるときに規定の距離を守らない。
  • 繰り返し反則する(「繰り返し」の定義に明確な回数や反則のパターンは、ない)。
  • 反スポーツ的行為を行う。
つまり「審判に文句を言わない」「時間稼ぎをしない」「距離を守る」は、礼儀である前に規則です。守らなければカードが出ます。 【規則には書かれていないこと】一方で、日本の子どものサッカーで当たり前に行われていることの多くは、競技規則の条文には書かれていません。試合前後のあいさつ、整列、相手を待たせないこと、勝ったときに大げさに喜ばないこと、そして試合後にボールを相手に返す慣習も同じです。これらは「広く行われている慣習」であって、破ってもカードは出ません。あいさつや整列の作法に統一された規定はなく、地域やリーグ、所属チームの決まりに従うものです。フェアプレー賞などの表彰制度も、大会や主催者によって基準が異なります。 この線引きが大事なのは、慣習を規則のように教えると、子どもが「なぜ怒られたのか」を理解できないからです。「規則だから守る」と「みんながそうしているから合わせる」は、別の話として教えたほうがいい。オウンゴールの記事で「規則が定めていること」と「リーグごとの運用」を分けたのと同じやり方です。

審判への敬意:抗議が割に合わない理由

「審判の判定に文句を言うのはやめよう」と道徳として教えても、子どもには響きません。規則で説明したほうが伝わります。 競技規則第12条は「言葉または行動により異議を示す」ことを警告の対象と定めています。これは選手だけでなく、交代要員や交代して退いた競技者にも同じく適用されます。ベンチから言っても同じです。 ここから、子どもにも分かる説明ができます。
  • 抗議しても判定は変わらない。変わるのはカードの枚数だけです。
  • すでに警告を1枚もらっている選手が抗議で2枚目をもらえば退場。チームは10人になります。
  • 第3条は「11人以下の競技者からなる2つのチーム」で試合を行うと定めており、いずれかのチームが7人未満になれば試合は続行されません。人数はチームの資産です。
「抗議は損だ」という言い方は冷たく聞こえるかもしれませんが、子どもには「相手を尊重しよう」より届きます。感情の抑え方そのものは試合中に冷静さを保つ記事に、判定でミスをしたあとの立て直し方はミスからの立ち直りの記事にまとめています。

JFAはリスペクトを公式に定義している

「リスペクト」という言葉は、日本サッカー協会が公式に定義している言葉です。 JFAのリスペクト・フェアプレーのページには、こう書かれています。「JFAとJリーグは2008年、サッカー界におけるリスペクトの重要性を認識し、『リスペクトプロジェクト』をスタートしました。リスペクトの本質は、常に全力を尽くしてプレーすること。それはフェアプレーの原点でもあります。JFAは、リスペクトを『大切に思うこと』として、サッカーに関わるすべての人、ものを大切に思う精神を広く浸透させていきます」 注目してほしいのは「リスペクトの本質は、常に全力を尽くしてプレーすること」という一文です。礼儀正しくすることではなく、手を抜かないことがリスペクトの中身だと定義されています。相手に対して最も失礼なのは、乱暴なプレーではなく本気でやらないことだ、という考え方です。 JFAはこの下に、リスペクト宣言、サッカーファミリー安全保護宣言、セーフガーディングポリシーといった文書を置いており、毎年「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」という強化月間も設けています。チームで礼儀を教えるなら、自作の標語よりこの公式の定義を出発点にしたほうが、子どもにも保護者にも根拠を示せます。

相手が倒れたとき:自己判断で止めない

「相手が倒れたらボールを外に出す」は、日本の子どものサッカーで広く教えられています。ただし、これは競技規則の条文ではありません。 規則が定めているのは主審の判断のほうです。第5条は「競技者の負傷が軽い場合、ボールがアウトオブプレーになるまでプレーを続けさせる」「競技者が重傷を負った場合、プレーを停止し、確実にその競技者を競技のフィールドから退出させる」と定めています。 つまり、止めるかどうかを決めるのは主審です。選手が良かれと思って毎回ボールを外に出すと、軽傷なのにプレーが止まり、相手の攻撃の機会を奪うことにもなります。 子どもに教えるなら、こう伝えるのが正確です。「頭を打った、動かない、明らかにおかしいと思ったら、まず主審に声で伝える。判断は主審がする」。倒れている選手を放置しろという話ではなく、判断の主体を間違えないという話です。 もうひとつ。倒れたふりはしないこと。第12条は反スポーツ的行為の例として「負傷を装う、またはファウルをされたふりをする(シミュレーション)」を挙げており、これは警告の対象です。「相手が倒れたら気づかう」と「自分は倒れたふりをしない」は、同じ節で教えるのがいちばん筋が通ります。

勝ったとき・負けたときにやること

ここは規則ではないので、行動のリストにします。心構えではなく、やることを決めておけば迷いません。 勝ったとき。
  • 喜ぶ前に、相手と審判に礼をする。順番を決めておくだけで、はしゃぎすぎを防げます。
  • 点差が開いても最後まで同じ強度でやる。手を抜くのは、上のJFAの定義でいえばリスペクトを欠く行為にあたります。
  • 相手の前で勝ち方を語らない。振り返りはロッカーに戻ってから。
負けたとき。
  • 終わるまで戦う。試合が終わっていないのに諦めるのは、相手にも味方にも失礼です。
  • 終わったら相手をたたえる。握手のときに顔を上げる、それだけで十分です。
  • 審判のせいにしない。負けた直後にそれをやると、次の試合でも同じことをします。
  • 悔しさは家に帰ってから使う。その日のうちに「次に何を変えるか」を1つだけ決めます。試合の振り返り方はここにまとめています。

大人がやってはいけないこと

子どもの礼儀を語るなら、大人の行動を抜きには意味がありません。しかも大人にも規則が適用されます。 指導者(チーム役員)について。競技規則第1条は、テクニカルエリアに入ることのできる者は「責任ある態度で行動しなければならない」と定め、さらに「テクニカルエリアからは、その都度ただ1人が戦術的指示を伝えることができる」としています。第5条は主審の職権として、「責任ある態度で行動しないチーム役員に対して処置をとり、注意する、もしくはイエローカードで警告する、またはレッドカードで競技のフィールドとその周辺(テクニカルエリアを含む)から退場させる」と定めています。コーチもカードを受けます。 保護者について。JFAは「保護者の役割」というページを公式に出しています。そこにはこう書かれています。
しかし、サッカーでの主役は子どもです。子どもたち自身が考え、感じ、判断し、プレーしたことを認めてあげてください。それがうまくいかなくても、決して責めないでください。失敗したことは十分にわかっています。上手にできたことはしっかりとほめてください。
勝っても負けても大きな拍手。良いプレーには味方、相手関係なしに拍手。そんなすてきな応援が子どものサッカーを盛り上げます。
「良いプレーには味方、相手関係なしに拍手」。ここだけでも持ち帰る価値があります。相手チームの子どもが良いプレーをしたときに拍手できる保護者がいる試合は、それだけで空気が変わります。 大人がやってはいけないことを、行動として3つに絞ります。
  • 判定に声を出さない。子どもは大人の抗議を見て、抗議していいものだと学びます。
  • 試合中に指示を飛ばし続けない。規則上も指示を出せるのは1人だけです。判断する練習を奪います。
  • 相手チームの子どもを評価しない。良いプレーには拍手、それ以外は黙る。これで十分です。

2025/26年の規則改正と、JFAの年間の取り組み

礼儀を「規則で説明する」やり方を取るなら、その規則が変わったときは教え方も合わせて更新する必要があります。2025/26年の競技規則では、時間の使い方に直結する変更が入りました。子どもの試合でも同じように適用されます。

2025/26年サッカー競技規則の主な改正点(子どものサッカーにも適用)
改正項目内容適用条文
GKのボール保持時間手や腕で8秒を超えて保持すると反則。相手側にコーナーキックが与えられる第12条
ドロップボールの再開方法ペナルティーエリア外では、ボールを保持していた(保持したであろう)チームを主審が判断できればそのチームの競技者の1人に、できなければ最後にボールに触れたチームの競技者の1人にドロップする。場所はプレーが停止されたときにボールがあった位置第8条

出典:日本サッカー協会「日サ協発第25050006号(2025年6月19日通達)」/日本サッカー協会「2025/26年サッカー競技規則 変更の概要と詳細」

8秒ルールは「時間稼ぎ」の線引きを数字にした

この改正は、2025年3月1日のIFAB年次総会での決定を受けたもので、2025/26年の競技規則として2025年7月1日から有効になりました。ゴールキーパーが手や腕で8秒を超えてボールをコントロールすると反則となり、相手側にコーナーキックが与えられます。

礼儀の話として見ると、ここは分かりやすい教材です。これまで「プレーの再開を遅らせる」は第12条の警告事由として条文にありましたが、どこからが遅延なのかは主審の判断でした。GKの保持については、そこに8秒という数字が付いた形です。子どもに説明するなら「ゆっくりやって時間を使うのは、マナーが悪いのではなく、規則で損になる」と言えば足ります。勝っている終盤にGKがボールを抱え込む場面は、少年サッカーでもよく起きます。抱えた瞬間から数えられていると知っていれば、行動が変わります。

ドロップボールの変更は、再開のしかたで主審の判断が入る場面を増やしました。ペナルティーエリアの外では、どちらのチームがボールを保持していた(保持したであろう)かを主審が見て、ドロップする相手を決めます。納得しにくい場面でも主審の決定に従って再開する、というのはそのまま礼儀の練習になります。

JFAの年間スケジュールを使う

礼儀の指導は、思いついたときにやると続きません。JFAが用意している時期に合わせるのが現実的です。

JFAのリスペクト関連の取り組み
時期内容
2008年JFAとJリーグが「リスペクトプロジェクト」を開始
2014年〜毎年9月を「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」と位置づけ、サッカーファミリー一人ひとりがリスペクト・フェアプレーを考え実行する期間とする
2025年9月1日〜30日「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ2025」として、全国のJリーグ・WEリーグ・なでしこリーグ等の試合で啓蒙活動を実施
2025年9月13日東京都文京区「blue-ing!」にて「2025年度リスペクトシンポジウム」を開催。暴力暴言の根絶・審判員へのリスペクトがテーマ。会場聴講とオンライン聴講のハイブリッド形式
2025年12月26日〜29日JFA第49回全日本U-12サッカー選手権大会を鹿児島県で開催。同大会は以前からリスペクト・フェアプレーを大切にしている

出典:日本サッカー協会「リスペクト・フェアプレー強化月間『JFAリスペクト・フェアプレーデイズ2025』を開催」/日本サッカー協会「9月はJFAリスペクト・フェアプレーデイズ!『リスペクト宣言』・『リスペクトのあるいい話』を募集中!」/日本サッカー協会「JFA 全日本U-12サッカー選手権大会とリスペクト ~サッカーの活動における暴力根絶に向けて~」

注目したいのは、2025年度のシンポジウムのテーマが「暴力暴言の根絶・審判員へのリスペクト」だったことです。審判への異議が割に合わないという話と、協会が全国規模で取り上げているテーマは同じ場所を指しています。子どもに異議の話をするとき、これはうちのチームの決まりではなく全国で取り組まれている課題だと示せると、説得力が違います。

チームでの使い方は単純です。9月を礼儀の月と決めて、その月の練習のはじめに5分だけ、規則で決まっていることと慣習の違いを確認する。GKの8秒とドロップボールのように、改正があった年は内容を入れ替える。年に1回、全員で同じ話をする日があるだけで、試合中の「これは規則だよ」という一言が通じるようになります。

まとめ

  • 「異議を示す」「再開を遅らせる」「シミュレーション」は競技規則第12条で警告の対象。礼儀である前に規則
  • 倒れた選手への対応を決めるのは主審(第5条)。選手が自己判断でプレーを止める規則にはなっていない
  • JFAはリスペクトを「大切に思うこと」と定義し、その本質を「常に全力を尽くしてプレーすること」としている(2008年開始のリスペクトプロジェクト)
  • あいさつ・整列・勝ったときの振る舞いは慣習。規則と混ぜて教えない
  • 指導者はテクニカルエリアで「責任ある態度」を求められ、カードの対象になる(第1条・第5条)
  • 保護者はJFAの公式ページどおり、主役は子ども、決して責めない、良いプレーには相手関係なしに拍手
味方との関係(協調性・責任感)についてはこちらの記事で扱っています。試合時間の使い方はハーフタイムの記事、得点の記録の決まりはオウンゴールの記事にあります。

評価 :5/5。