子どものサッカーの「礼儀」は、心構えではなく行動で覚えたほうが早く身につきます。しかもその一部は競技規則で決まっていて、守らなければ警告(イエローカード)の対象です。この記事では場面ごとに「何をするか」を一覧にし、そのうちどこまでが規則で、どこからが慣習なのかを線引きします(2026年8月16日更新)。
この記事は「相手・審判に対する態度」を扱います。味方との関係(協調性・責任感)はこちらの記事にまとめました。2本セットで読むと、子どものサッカーで大人が見るべき点がひととおりそろいます。
| 場面 | やること | 規則で決まっていること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 試合前 | あいさつ、握手、用具の確認 | 用具の安全は規則で定められている(第4条) | 競技規則2025/26 |
| 判定に納得できないとき | いったん受け入れて、次のプレーに戻る | ★「言葉または行動により異議を示す」は警告の対象 | 第12条 |
| 相手が倒れたとき | 審判の判断を待つ。自己判断で止めない | 軽傷ならプレー続行、重傷なら主審が停止する | 第5条 |
| ファウルをもらいたいとき | 倒れたふりをしない | ★シミュレーションは反スポーツ的行為=警告 | 第12条 |
| 勝ったとき | 相手と審判に礼をしてから喜ぶ | 規則には無い(慣習) | —— |
| 負けたとき | 最後まで戦い、終わったら相手をたたえる | 規則には無い(慣習) | —— |
| 保護者・指導者 | 判定に抗議しない。良いプレーは相手にも拍手 | ★チーム役員も警告・退場の対象 | 第1条・第5条 |
先に結論です。「礼儀を守りなさい」と言うより、「これは規則で決まっている」と言ったほうが、子どもには圧倒的に伝わります。なぜなら理由が具体的だからです。順に見ていきます。
サッカーの「礼儀」は、どこまでが規則で、どこからが慣習か
ここを分けないまま「マナーを守ろう」と言っても、子どもは何が絶対で何がお願いなのか判断できません。まず線を引きます。
【規則で決まっていること】——サッカー競技規則2025/26の第12条は、競技者が警告される場合として次を挙げています。
- プレーの再開を遅らせる。
- ★言葉または行動により異議を示す。
- 主審の承認を得ず、競技のフィールドに入る、復帰する、または意図的に競技のフィールドから離れる。
- ドロップボール、コーナーキック、フリーキックまたはスローインでプレーが再開されるときに規定の距離を守らない。
- 繰り返し反則する(「繰り返し」の定義に明確な回数や反則のパターンは、ない)。
- 反スポーツ的行為を行う。
つまり「審判に文句を言わない」「時間稼ぎをしない」「距離を守る」は、礼儀である前に規則です。守らなければカードが出ます。
【規則には書かれていないこと】——一方で、日本の子どものサッカーで当たり前に行われていることの多くは、競技規則の条文としては確認できませんでした。試合前後のあいさつ、整列、相手を待たせないこと、勝ったときに大げさに喜ばないこと。これらは「広く行われている慣習」であって、破ってもカードは出ません。
この線引きが大事なのは、慣習を規則のように教えると、子どもが「なぜ怒られたのか」を理解できないからです。「規則だから守る」と「みんながそうしているから合わせる」は、別の話として教えたほうがいい。オウンゴールの記事で「規則が定めていること」と「リーグごとの運用」を分けたのと同じやり方です。
審判への敬意——抗議が割に合わない理由
元の記事はここを「審判の判定に対して、選手やサポーターが異議を唱えることは避けるべきです」とだけ書いていました。理由が道徳しかありません。規則で説明します。
競技規則第12条は「言葉または行動により異議を示す」ことを警告の対象と定めています。これは選手だけでなく、交代要員や交代して退いた競技者にも同じく適用されます。ベンチから言っても同じです。
ここから、子どもにも分かる説明ができます。
- 抗議しても判定は変わらない。変わるのはカードの枚数だけです。
- すでに警告を1枚もらっている選手が抗議で2枚目をもらえば退場。チームは10人になります。
- 第3条は「11人以下の競技者からなる2つのチーム」で試合を行うと定めており、いずれかのチームが7人未満になれば試合は続行されません。人数はチームの資産です。
「抗議は損だ」という言い方は冷たく聞こえるかもしれませんが、子どもには「相手を尊重しよう」より届きます。感情の抑え方そのものは試合中に冷静さを保つ記事に、判定でミスをしたあとの立て直し方はミスからの立ち直りの記事にまとめています。
JFAはリスペクトを公式に定義している
「リスペクト」という言葉は、日本サッカー協会が公式に定義している言葉です。ここも元の記事には一言もありませんでした。
JFAのリスペクト・フェアプレーのページには、こう書かれています。「JFAとJリーグは2008年、サッカー界におけるリスペクトの重要性を認識し、『リスペクトプロジェクト』をスタートしました。リスペクトの本質は、常に全力を尽くしてプレーすること。それはフェアプレーの原点でもあります。JFAは、リスペクトを『大切に思うこと』として、サッカーに関わるすべての人、ものを大切に思う精神を広く浸透させていきます」
注目してほしいのは「リスペクトの本質は、常に全力を尽くしてプレーすること」という一文です。礼儀正しくすることではなく、手を抜かないことがリスペクトの中身だと定義されています。相手に対して最も失礼なのは、乱暴なプレーではなく本気でやらないことだ、という考え方です。
JFAはこの下に、リスペクト宣言、サッカーファミリー安全保護宣言、セーフガーディングポリシーといった文書を置いており、毎年「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」という強化月間も設けています。チームで礼儀を教えるなら、自作の標語よりこの公式の定義を出発点にしたほうが、子どもにも保護者にも根拠を示せます。
相手が倒れたとき——自己判断で止めない
「相手が倒れたらボールを外に出す」は、日本の子どものサッカーで広く教えられています。ただし、これは競技規則の条文ではありません。
規則が定めているのは主審の判断のほうです。第5条は「競技者の負傷が軽い場合、ボールがアウトオブプレーになるまでプレーを続けさせる」「競技者が重傷を負った場合、プレーを停止し、確実にその競技者を競技のフィールドから退出させる」と定めています。
つまり、止めるかどうかを決めるのは主審です。選手が良かれと思って毎回ボールを外に出すと、軽傷なのにプレーが止まり、相手の攻撃の機会を奪うことにもなります。
子どもに教えるなら、こう伝えるのが正確です。「頭を打った、動かない、明らかにおかしいと思ったら、まず主審に声で伝える。判断は主審がする」。倒れている選手を放置しろという話ではなく、判断の主体を間違えないという話です。
もうひとつ。倒れたふりはしないこと。第12条は反スポーツ的行為の例として「負傷を装う、またはファウルをされたふりをする(シミュレーション)」を挙げており、これは警告の対象です。「相手が倒れたら気づかう」と「自分は倒れたふりをしない」は、同じ節で教えるのがいちばん筋が通ります。
勝ったとき・負けたときにやること
ここは規則ではないので、行動のリストにします。心構えではなく、やることを決めておけば迷いません。
勝ったとき。
- 喜ぶ前に、相手と審判に礼をする。順番を決めておくだけで、はしゃぎすぎを防げます。
- 点差が開いても最後まで同じ強度でやる。手を抜くのは、上のJFAの定義でいえばリスペクトを欠く行為にあたります。
- 相手の前で勝ち方を語らない。振り返りはロッカーに戻ってから。
負けたとき。
- 終わるまで戦う。試合が終わっていないのに諦めるのは、相手にも味方にも失礼です。
- 終わったら相手をたたえる。握手のときに顔を上げる、それだけで十分です。
- 審判のせいにしない。負けた直後にそれをやると、次の試合でも同じことをします。
- 悔しさは家に帰ってから使う。その日のうちに「次に何を変えるか」を1つだけ決めます。試合の振り返り方はここにまとめています。
大人がやってはいけないこと
ここが元の記事にいちばん欠けていた部分です。子どもの礼儀の話をするなら、大人の行動を先に書かなければ意味がありません。しかも大人にも規則が適用されます。
指導者(チーム役員)について。競技規則第1条は、テクニカルエリアに入ることのできる者は「責任ある態度で行動しなければならない」と定め、さらに「テクニカルエリアからは、その都度ただ1人が戦術的指示を伝えることができる」としています。第5条は主審の職権として、「責任ある態度で行動しないチーム役員に対して処置をとり、注意する、もしくはイエローカードで警告する、またはレッドカードで競技のフィールドとその周辺(テクニカルエリアを含む)から退場させる」と定めています。コーチもカードを受けます。
保護者について。JFAは「保護者の役割」というページを公式に出しています。そこにはこう書かれています。
しかし、サッカーでの主役は子どもです。子どもたち自身が考え、感じ、判断し、プレーしたことを認めてあげてください。それがうまくいかなくても、決して責めないでください。失敗したことは十分にわかっています。上手にできたことはしっかりとほめてください。
勝っても負けても大きな拍手。良いプレーには味方、相手関係なしに拍手。そんなすてきな応援が子どものサッカーを盛り上げます。
「良いプレーには味方、相手関係なしに拍手」——ここだけでも持ち帰る価値があります。相手チームの子どもが良いプレーをしたときに拍手できる保護者がいる試合は、それだけで空気が変わります。
大人がやってはいけないことを、行動として3つに絞ります。
- 判定に声を出さない。子どもは大人の抗議を見て、抗議していいものだと学びます。
- 試合中に指示を飛ばし続けない。規則上も指示を出せるのは1人だけです。判断する練習を奪います。
- 相手チームの子どもを評価しない。良いプレーには拍手、それ以外は黙る。これで十分です。
この記事が書かなかったこと
- 試合前後のあいさつや整列の「正しい作法」——競技規則にも、JFAの公開資料にも、統一された作法の規定を確認できませんでした。地域やリーグごとに違うので、所属チームの決まりに従ってください。
- 「ボールを相手に返す」慣習——広く行われていますが、規則の条文としては確認できませんでしたので、慣習として書いています。
- フェアプレー賞などの表彰制度の詳細——大会ごとに基準が違い、一次資料をまとめて確認できませんでした。
- 旧ブランドに関する記述——この記事の元の本文は、末尾2段落が物販の案内で終わっていました。礼儀の話がグッズの話に着地する構成だったので、まるごと外しました。
まとめ
- 「異議を示す」「再開を遅らせる」「シミュレーション」は競技規則第12条で警告の対象。礼儀である前に規則
- 倒れた選手への対応を決めるのは主審(第5条)。選手が自己判断でプレーを止める規則にはなっていない
- JFAはリスペクトを「大切に思うこと」と定義し、その本質を「常に全力を尽くしてプレーすること」としている(2008年開始のリスペクトプロジェクト)
- あいさつ・整列・勝ったときの振る舞いは慣習。規則と混ぜて教えない
- 指導者はテクニカルエリアで「責任ある態度」を求められ、カードの対象になる(第1条・第5条)
- 保護者はJFAの公式ページどおり——主役は子ども、決して責めない、良いプレーには相手関係なしに拍手
味方との関係(協調性・責任感)についてはこちらの記事で扱っています。試合時間の使い方はハーフタイムの記事、得点の記録の決まりはオウンゴールの記事にあります。

