特別指定の条文で先に読むのは理念ではなく、交通費を誰が出すかの一行

もし自分の子どもが、高校のチームに籍を置いたままJクラブの公式戦に出ることになったとしたら、家で最初に出てくる話は何だろうか。誇らしい気持ちの次に来るのは、たぶん練習場まで何で通うのか、その電車賃は誰が持つのか、そのあたりの、ずいぶん地味な相談ではないかと。

スペインのアトレティコで、19歳のセルヒオ・エステバンが筋肉の負傷を治すために手術を受けました。ムルシア戦の開始18分での負傷。昨季は下のカテゴリーと欧州のユースの大会をまたいで22得点を挙げ、夏にはシメオネのもとでプレシーズンに合流し、ヘタフェやマンチェスター・ユナイテッドを相手に時間をもらっていた選手。

籍を上に移さないまま、19歳が上のカテゴリーの試合に立つ。日本にも同じ形があって、こちらは能力を讃える言葉ではなく、ひたすら手続きの文として書かれている。JFAの選手育成のページに置かれている特別指定の説明を読むと、二つの組織に同時に属するという状態が、同意と懲罰と費用の三点にきれいに割られている。

判はいくつ必要か

受入先のJクラブは、所属チーム、つまり大学または高校等と、選手本人の双方と合意したうえで申請する。選手が未成年なら保護者の同意も要る。さらに所属チームが大学サッカー部に準じるチームや一般ユースチームである場合は、その選手が通学している学校の合意も併せて必要。

数えると、一人の高校生や大学生を上のピッチに立たせるために、本人、保護者、所属チーム、学校と、承諾する側が四つ並ぶ場合がある。クラブが欲しいと言っただけでは一歩も動かない。この四つのうちどれか一つが渋れば止まるという書き方になっている。

呼んだ側が払う

そして費用。活動にかかる交通費等の経費は受入先のJクラブが負担する、と書かれています。JFAが推薦した場合はJFAが負担する、とも。

短い一文ですが、ここが一番はっきりしている。二重所属になった瞬間に増えるのは、練習と試合のために往復する移動そのもの。高校の部活動の会計にも、家庭が毎月払っているものの中にも、Jクラブの練習場へ通う分の項目は最初から無い。制度はその増えた分を、家庭にも学校にも回さず、呼んだ側に付けた。JFAが推薦したならJFAが出す、というのも同じ理屈で、誰が呼び寄せたかで支払う名前が変わる。

日本の育成年代の制度は理念の文章が薄いとよく言われるけれど、薄いのではなく、理念の代わりにこういう一行を置いている。同じ建て付けが、なでしこリーグ向け、Fリーグ向けにも別々に用意されていて、どれも文面の作りは変わらない。

罰は片方でしか効かない

面白いのは懲罰の扱い。所属チームの試合で科された懲罰は、原則として所属チームの試合にのみ適用され、Jリーグの試合には適用されない。逆も同じ。ただし出場停止が期間で科された場合等はこの限りではない、と但し書きが付く。

身体の故障は、こんなふうに片方だけで止まってはくれない。アトレティコの19歳が数週間ピッチを離れるとき、下のカテゴリーの試合も、トップに帯同する予定も、同時に消える。ところが書類の上で科された罰のほうは、片方の世界にとどめられる。二重所属というのは、一人の子どもの身体は一つしかないと認めたうえで、記録だけを二つに分けて持つということ。

出口にも同じ作法が残っている。認定の解除にも所属チームと選手の合意が必要で、争いが生じた場合はJFAが決定する。入るときに判が四つ要るなら、抜けるときにも合意が要る。どちらか一方が勝手に終わらせられない形にしてある。

未成年が二つの大人の組織にまたがる。ふつうなら、どちらが上かで揉める話。日本はそれを、上下ではなく、誰が同意するか、どの罰がどこまで届くか、金は誰が出すか、の三つに分解して処理した。手続きばかりで冷たいように見えて、いちばん弱い立場の家庭に負担が回らないよう先に釘を打っているのは、この三つ目のほうだと思っています。

次にどこかのクラブから特別指定の認定が出たら、名前でも所属校でもなく、その子が練習場へ通う代金を誰が持つと書かれているかの一行を、先に探す。

出典: as.com(2026-09-24)

評価 :5/5。