相手チームの分析というと「試合中に見抜くもの」と思われがちですが、実際には試合前・試合中・試合後の3つの場面に分かれています。以下では、その全体像を整理したうえで、試合中に見る5つの観点を「何を見るか」だけでなく「見えたら何を変えるか」まで書きます。数字はJリーグ公式のデータ、ルールの話は競技規則の原文を根拠にしています(2026年8月24日更新)。
分析の全体像:試合前・試合中・試合後
まず全体像を表にします。ここで扱う観点は「試合の勝敗に対して、自分たちが打てる手がある」ものだけです。相手の内情のように手が出せない情報は入れていません。
| タイミング | 見るもの | 見えたら何を変えるか |
|---|---|---|
| 試合前 | 相手の並び・キープレーヤー・セットプレーの型 | マークの担当と、立ち上がりの入り方を決めておく |
| 試合中1 | フォーメーション(4-4-2か3-5-2か) | 数的優位が生まれる場所へボールを運ぶ |
| 試合中2 | キープレーヤーとパスの供給源 | 供給源を消す。本人ではなく手前を切る |
| 試合中3 | 攻撃パターン(サイドか中央か) | 守備の重心をずらす。誘導する方向を決める |
| 試合中4 | 交代の意図 | 入った選手のファーストプレーに人を当てる |
| 試合中5 | 後半の疲労とスプリントの落ち方 | 仕掛ける時間帯を決める |
| 試合後 | 動画での確認 | 記憶ではなく記録で次に活かす |
【試合前】スカウティングで先に決めておくこと
試合中に判断できることには限りがあります。プレーしながら考えられる量は多くないので、事前に決められることは全部決めておくのが合理的です。
事前に調べておきたいのは次の3つです。
- 基本の並びと、直近で変えてきているか:並びが毎試合違うチームは、当日の確認を優先する
- キープレーヤーが誰で、どこにいるか:マークの担当を先に決める
- セットプレーの型:ここは事前に見ておかないと、試合中には対応できない
逆に、試合前に決めすぎるのも危険です。相手の並びに合わせて自分たちのやり方を変えると、後手に回ることがあります。相手の実力、その日のコンディション、選手層を見て、「合わせる」のか「押し通す」のかを先に決めておくほうが実戦的です。
【試合中1】フォーメーション:4-4-2と3-5-2の見分け方
最初に見るのは並びです。ただし「4-4-2だ」と分かること自体には価値がありません。大事なのは、そこからどこが空くかです。
見分け方
攻撃時は選手が動くので分かりません。相手が自陣に引いて守っている時間に、最終ラインの人数を数えます。4人ならバックフォー、3人ならスリーバックです。次に中盤の人数を数えれば並びが確定します。
見えたら何を変えるか
- 4-4-2:中盤の中央が2人。相手の2人の脇(中盤の外側と最終ラインの間)が空きやすい
- 3-5-2:中盤が5人で厚い代わりに最終ラインの外側が空きやすい。サイドの選手が上下動で埋めるので、その選手が上がった裏が狙い目
「相手の並びを見て自分たちの並びを変える」必要はありません。変えるのは、ボールを運ぶ場所です。用語そのものの意味はサッカー用語集に整理しています。
【試合中2】キープレーヤーとパスの供給源
危険な選手を消すのは基本ですが、本人をマークするより、その選手にボールが渡る経路を切るほうが効きます。
攻撃の中心になるのはトップ下やサイドハーフであることが多い一方、そこへ供給しているのは中盤の底の選手であることがよくあります。危険な選手が仕事をしていないのに攻められ続けるなら、供給源を見誤っている可能性があります。
見えたら何を変えるか
利き足を見ます。右利きの選手を左側に追い込めば、出せるパスの選択肢は減ります。チーム全体で「どちらに追い込むか」を統一するだけで、供給の質は落ちます。
中盤の底の選手が何をしているかについては日本代表のボランチを整理した記事で扱っています。
【試合中3】攻撃パターン:サイドか中央か
相手がサイドからクロスを上げてくるのか、中央をスルーパスで割ってくるのか。これは2〜3回攻められれば分かります。
見えたら何を変えるか
- サイド主体なら:中央の枚数を確保し、クロスの入り口を1つに絞る
- 中央主体なら:中を締めて外へ出させる。外に出した後の対応を先に決めておく
両方を同時に消すことはできません。どちらを捨てるかを決めるのが分析の役割です。
【試合中4】交代の意図を読む:「3回」という制限から考える
交代は最も分かりやすいシグナルです。ここはルールを知っていると読み方が変わります。
サッカー競技規則2025/26の第3条は、公式競技会について「最大5人の交代要員を使うことができ」、各チームは「最大3回の交代回数を使うことができる」「これに追加して、ハーフタイムにも交代を行うことができる」と定めています(JFA公式・サッカー競技規則2025/26 第3条)。
つまり交代できるのは5人でも、回数は3回しかありません。だから相手は1回でまとめて2〜3人替えてくることがあります。
見えたら何を変えるか
- まとめて複数人替えてきた:流れを変えにきている。直後の数分は前に出ず、まず受け止める
- 攻撃的な選手が入った:守備の意識を上げる。対面する自チームの選手に「まず1本目を触らせない」と伝える
- 守備的な選手が入った:逃げ切りに入った合図。押し込む時間を作る
入った選手のファーストプレーには必ず人を当てます。入りたての選手は試合の速さに慣れていないので、最初の1本が最も奪いやすいタイミングです。
【試合中5】後半の疲労:Jリーグのデータで見る
「後半は疲れて動きが落ちる」はよく言われますが、どれくらい落ちるのかを数字で持っておくと、仕掛ける時間帯を決められます。
Jリーグが公開している2026シーズンJ1のクラブスタッツ(2026年8月10日更新)では、1試合平均走行距離が最も多いクラブで121km(チーム合計)、1試合平均スプリント回数が最も多いクラブで141回です。出場11人で割ると1人あたり走行距離はおよそ11km、スプリントは1試合13回前後になります。
ここが重要な点です。スプリント13回のうち何本を後半に残せるかが、実際の勝負どころになります。全力で走れる回数は元々そんなに多くありません。だから「疲れてきたら仕掛ける」ではなく、「相手が何本使い切ったか」を見て仕掛けるという考え方に変わります。
具体的には、相手のサイドの選手が戻る速度が落ちた瞬間が最も分かりやすいシグナルです。上下動を繰り返すポジションなので、消耗が最初に出ます。走行距離の読み方については朝練を実データで検証した記事で詳しく扱っています。
【試合後】スマホの動画で振り返る
ここまでは試合中の話ですが、分析でいちばん伸びるのは試合後です。理由は単純で、試合中に見えたと思ったことの多くが、記憶では正確に残らないからです。
「相手のボランチが供給源だった」と感じたなら、それが本当だったかを後から確認できます。確認して合っていれば自分の見方に自信が持てますし、外れていれば見方を修正できます。どちらでも次に効きます。
やり方は難しくない
必要なのはスマホで撮った試合の動画だけです。専用の機材も高価な分析ソフトも要りません。
- 試合直後に、確認したい場面を3つだけメモする:多くすると見返さなくなります
- その場面だけを切り出す:全部見返す必要はありません
- チームで共有する:「自分にはこう見えた」を突き合わせると、見方の差が分かります
動画の切り出しやチーム内での共有、練習の記録までをまとめて扱えるサービスもあります(NEWDIH APPなど)。手段は何でも構いませんが、「撮る」で終わらせず「見返す」まで到達させることが分析の分かれ目です。
数値で語ることの意味についてはチームに信頼される7つの力の「示す力」の節でも触れています。
分析を「変えること」につなげる
最後に、分析が空回りする典型を挙げておきます。
①見るだけで終わる。「相手は4-4-2だ」と分かっても、そこから何も変えなければ意味がありません。毎節「見えたら何を変えるか」を書いているのはそのためです。
②全員が違うものを見ている。1人が気づいても、味方に伝わらなければチームは動きません。試合中に共有できる語彙を持っているかが効いてきます。味方と合わせる話は連携プレーの型をまとめた記事に整理しています。
③相手に合わせすぎる。相手の並びに応じて自分たちのやり方を毎回変えていると、自分たちの型が育ちません。「合わせる」のか「押し通す」のかは、分析の前に決めておく判断です。戦術がどう変わってきたかはサッカー戦術の変遷をまとめた記事で扱っています。
まとめ
- 分析は試合前・試合中・試合後の3場面に分かれる。試合中だけの話ではない
- 試合中に見る5観点はフォーメーション/キープレーヤーと供給源/攻撃パターン/交代の意図/後半の疲労
- どの観点も「見えたら何を変えるか」までセットにする。見て終わりは分析ではない
- 交代は競技規則第3条で「5人・3回まで(ハーフタイムは別)」。だからまとめて替えてくる。直後は受け止める
- Jリーグ2026年のデータでは1人あたり走行距離およそ11km、スプリント13回前後。全力で走れる回数は多くない
- いちばん伸びるのは試合後の振り返り。スマホの動画で、確認したい場面を3つだけ見返す
