あなたが指導しているクラブのボランチには、右利きの選手が並んでいますか。それとも左利きの選手がいますか。ほとんどのチームで答えは「右利き」でしょう。
「ボランチにレフティを起用することで、ゴールが生まれる確率が高くなる」。2015年、筆者はそう考えて説を立てました。疑問や異論を持つ方も多いはずですが、最後まで読んでもらえれば、うなずける部分もあるはずです。2026年8月19日、10年以上が経ったこの説の「その後の答え合わせ」を書き足しました。
ボランチにレフティを起用したほうがいい理由
理由は主に二つあります。一つ目は、ボランチが「チームの核」になるポジションだからです。競合する選手は圧倒的に右利きが多く、ボランチ以外のポジションでもレフティは貴重な存在として優遇されがちですが、トップ下やサイド、FWの選手と比べても、ボランチのレフティ数はさらに少ない印象があります。単にレフティ同士の競合が少ないからではありません。ボランチは最大でトリプルボランチ(3人)を置けるポジションです。そこに1人でもレフティが入れば、右利きだけのときとは違うアクセントとリズムをチームにもたらせます。優秀な右利きのボランチが既にいても、左利きを同時に使いたくなる贅沢を許すポジションでもあるのです。
二つ目は、右利きが多いからこそ「デルピエロゾーン」を狙いやすくなるからです。ボール支配率の高いチームは、ボランチを経由してボールを右へ左へ縦へ後ろへ運びます。ボランチが右利きだと、右サイドから左サイドへのサイドチェンジは、逆方向のサイドチェンジと比べてワンテンポもツーテンポも遅くなります。右利きの選手は、右サイドから真ん中へ来たボールを、利き足でない左足でトラップするのをどうしても躊躇してしまうからです。左足でトラップできれば、一回のターンで逆サイドを向けます。右足でのターンでは、それが非常に困難になります。
全盛期のバルセロナで中盤を支配したシャビも、右利きです。世界でもトップクラスのボランチである彼のプレー集で、右サイドから来たボールの処理の仕方、体の向き、ボールの持ち直しに注目してください。そして逆に、左サイドから来たボールの同じような処理の仕方にも注目してください。
http://youtu.be/IW3LomJWFSQ
言いたいことが伝わるでしょうか。ハッキリ言って上手すぎてすべてがうまくいっているように見えるかもしれませんが、シャビでも右サイドから左サイドへの展開はワンテンポ遅くなっています。逆に、左利きのボランチは左サイドから右サイドへの展開こそ難しいものの、右サイドから左サイドへの展開は、トラップだけで素早く逆サイドにターンでき、次のプレーでサイドチェンジができます。
だからこそ、左利きのボランチを置ければ、左サイドからの攻撃を増やせます。日本代表も、相馬直樹の時代から長友佑都の時代まで、なぜか左サイドからの攻撃や得点が多いチームでした。右利きが圧倒的に多い状況で、チームの一番の点取り屋(ここでは右利きを想定)を左サイドや、もしくは少し中へ位置させれば、ゴールに向かって右斜め45度・ペナルティエリア角付近の「デルピエロゾーン」からのシュートチャンスが生まれやすくなります。
世界でもまだレフティボランチが少ないいまなら、自分(指導している選手)がレフティであれば、ボランチのあり方を研究し、本格的に勝負を仕掛ける価値があります。ただし一つアドバイスするなら、どうせ学ぶなら世界最高峰のボランチから学ぶべきです。「何を学んだか」よりも「誰に学んだか」を重視すべきです。
実際、日本代表のボランチは右利きが大半だった
日本人のサッカー選手で右利きが多いことに何の異論もありません。これは日本だけでなく世界共通です。
Coren(1993)は、利き手同様、男性 83.9%、女性 88.9%に右足利きの傾向がみられたことを報告して おり、足においても右使用の傾向があることがいえ る。
日本大学大学院総合社会情報研究科紀要(Coren, S., 1993 の報告を引用・掲載サイトは確認時点でアクセス不可)
日本大学大学院総合社会情報研究科紀要によると、物を操作するときに用いる足(ボールを蹴るなど)の割合(比率)は、男性の83.9%が右足利きです。残りの16.1%が左足利き(ボールを蹴る足が左)のレフティということになります。
※両利きは分からない
この数字を頭に入れて、日本代表の歴史を彩ってきたボランチの選手と、その利き足を見てみましょう。肩書は初出(2015年)当時のものです。
森保一(当時サンフレッチェ広島監督)【右足】
のちに日本代表監督としてワールドカップを2大会指揮することになる、オフトジャパンのダイナモ。この時代、ボランチという言葉よりも守備的MF(ディフェンシブハーフ)という言い方が一般的でした。
本田泰人(元鹿島アントラーズ・当時サッカー解説者など)【右足】
子どもに人気の必殺仕事人。ファウルすれすれのプレーでファンを魅了しました。
山口素弘(元横浜フリューゲルス)【右足】
ここまでの中盤の底の役割は守備がメインでしたが、ゲームを作る役割を加えた選手です。選手と指導者の違いを身に染みて感じているかもしれません。
名波浩(当時ジュビロ磐田監督)【左足】
長期に渡って日本代表の10番を背負ったレフティ。元々7番がマイナンバーで、順天堂大学在学時は出場5分で結果を出す男として、トップ下をメインとしていました。展開力とゲームコントロールが魅力のボランチです。
稲本潤一(当時コンサドーレ札幌)【右足】
スーパーなボランチ。イングランド、トルコ、ドイツ、フランスを経験しているレジェンドボランチです。最初に呼ばれたアンダーの試合では右サイドバックを務め、センターバックも務めました。誰がどうみてもスーパーです。
福西崇史(当時サッカー解説者、タレント)【右足】
中田英寿と宮本恒靖に自分のサッカー観を言える男。男らしい生き様と激しいプレースタイルの反面、やさしい笑顔が大沢たかおに似ている一面があります。
鈴木啓太(元浦和レッズ)【右足】
サッカー選手になっていなければEXILEに入っていたかもしれないナイスガイ。ここぞという場面でピンチを防ぐ守備重視型でした。引退のセレモニーは、アイドルの「卒業」会見のような気がしてなりませんでした。
長谷部誠(当時アイントラハト・フランクフルト、2024年に現役引退)【右足】
代表主将を務めたミスターボランチですが、浦和レッズ時代にトップ下で相手を置き去りにした高速ドリブルは衝撃的でした。
遠藤保仁(当時ガンバ大阪、2024年に現役引退)【右足】
説明不要のマイペース男。全盛期はバルセロナに一番近い日本人だったかもしれません。シャビとは誕生日が3日違いの同い年。ダブルボランチに夢の共演をみてみたかったものです。
こうして見ると、名波浩以外は全員が右利きでした。この他、阿部勇樹や中村憲剛などがいますが、レフティのボランチは数多くないことがわかります。
10年後の答え合わせ:現代のレフティボランチ
この説を立ててから10年以上が経ちました。世界に目を向けると、レフティボランチの価値はむしろ高まっています。
代表格が、スイス代表の主将グラニト・ジャカです。アーセナルではキャプテンを務め、レバークーゼンでは2023-24シーズンの無敗優勝の中心となり、左足から繰り出す正確な展開でゲームを支配する「左利きの司令塔型ボランチ」の完成形を見せました(スポーツナビ選手名鑑)。また、2024-25シーズンに欧州チャンピオンズリーグを制したパリ・サンジェルマンでは、左利きのファビアン・ルイスが中盤の主力として君臨。ビルドアップの出口を左足で作る選手の価値は、ポゼッション志向が強まる現代サッカーでますます大きくなっています。
日本では、FC町田ゼルビアの中山雄太が貴重な存在です。左利きでセンターバックもボランチもこなし、日本代表でも22試合に出場(Jリーグ公式選手プロフィール)。2026年8月には「次の代表に入っていきたい」と左利きを武器にした再挑戦を宣言しています(サッカーキングの報道)。それでも、日本代表のボランチの主流は依然として右利き。この説の答え合わせは、まだ道半ばです。
ボランチというポジション自体の変遷(アンカー、ゲーゲンプレス、ポジショナルプレー)は、サッカー戦術の歴史と変遷の記事に書きました。
理想はレフティの1ボランチか
真ん中のスペースを1ボランチで賄うには、相当能力の高い選手を配置することが求められます。2015年の初出時には「今の日本では希望の光があまり見えない。強いて言うならセレッソ大阪の扇原貴宏か」と書いていました。
なぜ1ボランチか。1ボランチにすることで、攻撃や守備のストロングポイント、ウィークポイントに選手を増やすことが可能だからです。
理想の1ボランチ像として以下のように設定します。
1、レフティ
2、背が高い(180cm以上は欲しい)
3、守備より攻撃センスがある
該当する選手がいましたら、是非日本代表のレフティボランチを目指してください。日本サッカーの中盤に、左足で時計の針を進める選手が現れる日を、10年越しで待ち続けています。
