「そのポジション、向いてないんじゃないか」。そう言われたとき、まず何を確かめればいいんでしょう。逆に自分から変えたくなったときは、何を決めてから動けばいいのか。
ややこしいのは、「ポジションチェンジ」と「ポジション変更」が別のことを指している点です。ひとつは試合中に選手同士が入れ替わる動き、もうひとつはキャリアの中で持ち場そのものが変わること。検索するとこの2つが混ざったまま出てくるので、先に分けてから進めます(2026年8月21日更新)。
まず結論:言葉を2つに分けて、考えることは3つ
2つの違いは、並べるとはっきりします。
| 試合中のポジションチェンジ | キャリアのポジション変更 | |
|---|---|---|
| 何が起きるか | プレー中に2人以上が持ち場を入れ替わる | 登録上・実質上の持ち場そのものが変わる |
| 誰が決めるか | 選手同士の判断、またはあらかじめ決めた約束事 | 本人、指導者、チーム事情のいずれか |
| いつ起きるか | 1試合の中で何度でも | 数か月〜数年に一度 |
| 戻せるか | すぐ戻せる | 戻すには時間がかかる |
| 規則との関係 | GK以外は規則上の制限がない(GKだけは主審への通知が必要) | 規則は関与しない。チームの運用の話 |
ここから先で扱うのは後者、キャリアの話です。持ち場を変えるかどうかで迷っているなら、考えることは3つだけ。なぜ変えるのか、誰が決めているのか、新しい持ち場の中身を具体的に描けるか。
もとは2016年に書いた記事です。3つという骨格はそのまま残しますが、根拠のなかった数字と、出所を示せない練習方法は今回取り下げました。何をどう取り下げたのかは、当時の本文を引いたうえでそれぞれの節に書いてあります。
「ポジションチェンジ」と「ポジション変更」は別の話
試合中のポジションチェンジは、たとえば右サイドの選手と中央の選手が、相手のマークをずらすために一時的に入れ替わる動きのことです。プレーの手段であって、キャリアの話ではありません。攻撃の型としてどう使うかは連携プレーの記事で、相手のポジションチェンジをどう読むかは相手チームを分析する記事で扱っています。
キャリアのポジション変更は、ボランチだった選手がセンターバックになる、フォワードがサイドバックになる、というほうです。持ち場そのものが変わります。
区別が要るのは、混ぜると噛み合わなくなるからです。「ポジションチェンジのやり方」を知りたい人に「なぜ変えるのかを自問しなさい」と返しても答えになりませんし、その逆も同じです。以前の版はこの2つを混ぜたまま書いていたので、そこも直しました。
競技規則に「ポジション」という概念はない
ここがいちばん大事なところだと思っています。サッカー競技規則2025/26の第3条が定めているのは、これだけです。
試合は、11人以下の競技者からなる2つのチームによって行われる。そのうち1人は、ゴールキーパーである
サッカー競技規則 2025/26 第3条(競技者)
フォワードもボランチもサイドバックも、条文には出てきません。唯一、規則が手続きを定めているのはゴールキーパーだけで、同じ第3条の「ゴールキーパーの入れ替え」にこうあります。
ゴールキーパー以外の競技者は、次の条件でゴールキーパーと入れ替わることができる。・入れ替わる前に主審に通知する。・プレーの停止中に入れ替わる
サッカー競技規則 2025/26 第3条(ゴールキーパーの入れ替え)
つまり規則の世界では、ポジションの区別は「GKか、それ以外か」しかありません。
登録の側も似ています。日本サッカー協会が発表する代表メンバー表の区分はGK/DF/MF/FWの3つだけで、「ボランチ」「ウィンガー」「サイドバック」といった区分は存在しません。同じ整理はプレースタイルの記事とFWの人数の記事でもしています。
ここから前提が変わります。ポジション変更は、規則で決まっているものを乗り換える行為ではなく、チームの中での役割の割り当てが変わることです。だから「ポジションを捨てる」という重い言い方をする必要はありません。捨てるのではなく、割り当てが変わるだけです。
なぜそのポジションへ変更するのか
それでも、なぜ変えるのかははっきりさせておいたほうがいい。理由が分からないまま変えると、うまくいかなかったときに戻る場所も分からなくなるからです。提案は3つの経路で来ます。
第三者からの提案
誰かに「そのポジションのほうが向いている」と言われたら、必ず理由を聞いてください。あなたのサッカー人生の決定権はあなたにあるのに、あなたではない誰かが持ち場を動かそうとしているのですから、理由を問うのは当然のことです。
聞き方も決めておくと楽です。「なんとなく」で終わらせないために、次の3つを聞きます。
- 私のどのプレーを見てそう思いましたか。具体的な場面が出てこないなら、印象で言っています
- 新しい持ち場で、私に何を期待していますか。期待の中身が言えないなら、まだ考えていません
- いまの持ち場で足りないと思っているのは何ですか。ここが本題であることが多い
指導者からの提案
ある試合でいきなり違う持ち場で起用され、それ以降も続くことがあります。この場合も本意を確かめてください。考えられるのは、①あなたのために変えた ②チームの戦術上そうせざるを得なかった ③人数合わせや怪我人の穴埋め、のいずれかです。③なら一時的なものかもしれません。聞かないまま「自分は転向させられた」と思い込むのが、いちばんもったいない。
己の決断
自分で選ぶのは自由です。元の持ち場に戻ってもいいし、新しいほうに居座ってもいい。ただし理由は自問してください。憧れの選手がいるから。ライバルに奪われて新しい可能性を探すため。ライバルから逃げるため。なんとなく面白そうだから。どれも動機としてはあり得ますが、「逃げ」だけは、新しい持ち場でも同じことが起きます。レギュラーを外れた直後の考え方はミスからの立ち直りの記事に、時間軸に沿って書きました。
「平均3回」という数字は取り下げます
最初の版には、こう書いてありました。
一般的なサッカー選手のサッカー人生で、ポジション変更をした平均回数は3回と言うデータがありません。おそらくそれぐらいだろうとこれまでの経験から勝手に推測しているだけです。
大体は合っているのではないでしょうか。
2016年の初出時の本文より
データが無いと自分で書いておきながら、その数字を前提に使っていました。「大体は合っている」という補強にも根拠がありません。
では、いま調べたらどうか。ポジション変更の平均回数を示す統計は、公的機関やリーグの公開資料では確かめられませんでした。そもそも、上で見たとおり規則にも登録にも「ボランチ」「サイドバック」という区分が無いので、何をもって1回の変更と数えるかが決められません。数えられないものに平均値は出ません。
だから数字は落として、こう言い直します。
- 回数に上限はありません。「3回まで」という制限はどこにもない
- 回数より、1回ごとに理由を残しておくほうが役に立ちます。いつ、誰の判断で、何を期待されて変えたのか
これを覚えている選手は、次に迷ったときに自分で決められます。もとの主張(3回まではやってみてもいい)を消すのではなく、より確かな形に組み直すとこうなります。回数は気にしなくていい。理由を残すほうが大事です。
「世界をとれると思えるか」は基準にしない
2つめの問いとして、以前は「そのポジションで世界をとれると思えるのか」を挙げていました。見出しは残します。ただし判断基準としてではなく、当時の書き手の考えとして残します。
理由は2つあります。1つめ。中学生や高校生の一般の選手にとって、「世界一を想像できるか」は判断の材料になりません。想像できなくても続ける価値はありますし、想像できたからといって確率が上がるわけでもない。
2つめ。当時はこう書いていました。
どちらにせよ、日本のトップクラスの選手になる、世界一の選手になると言う可能性は、あくまでもゼロに近い数パーセントの範囲でしか可能性がありません
2016年の初出時の本文より
この「ゼロに近い数パーセント」に根拠はありません。実数で言えることはサッカー推薦の記事にまとめてあり、たとえば関東大学サッカー連盟の公表資料からは、2026年加入内定として85人(うちJクラブ84人・デンマーク1人、23大学)の名前が確認できます。「ゼロに近い」ではなく「数えられる」と言うほうが正確です。
そのうえで、この問いの良かった部分は残します。「その持ち場でプレーしている自分を具体的に描けるか」。基準としては使えませんが、準備の方法としては有効です。次の節につながります。
イメージトレーニングは90分やらない
3つめの問いは「そのポジションで90分間目を閉じてイメトレができるのか」でした。当時の本文はこう続きます。
時間軸で考える場合は、全て90分間で考えることができるサッカー人にならねばなりません。
ですので、サッカーでポジションを変更する前に、一度90分間ぶっ通しでそのポジションに変更した後のイメトレを行ってみてください
2016年の初出時の本文より
方法として無理があるので、公的機関の手順に置き換えます。日本スポーツ振興センター(JSC)ハイパフォーマンススポーツセンターが公開しているメンタルトレーニングの解説には「イメージ技法」の項目があり、手順がこう示されています。
- ①リラックス:目を閉じて、呼吸法を行う
- ②イメージ:思い出したい場面や動作などをイメージする。「最初は1〜2分ではじめ、徐々に5分程度まで時間を伸ばします」
- ③消去動作:腕を曲げ伸ばししたり背伸びをしたりして、身体のだるい感じを取る
- ④開眼
- ⑤感想:できたところ・できなかったところを、理由を考えて記入する
公的機関が示す時間は、最初は1〜2分、徐々に5分程度まで。90分ではありません。「90分間ぶっ通し」は方法として勧められないので取り下げます。
同じページには、押さえておくべき区別も書かれています。イメージには「自分が動いているイメージ(内的イメージ)」と「外から自分を観察しているイメージ(外的イメージ)」があり、意図に合わせて使い分ける。良いイメージトレーニングのポイントは鮮明性(視覚だけでなく聴覚・触覚・身体感覚まで鮮明に)と統御可能性(消去・再生・スローなど意図してコントロールする)の2つです。
ポジション変更に当てはめると、やることはこうなります。新しい持ち場で起きる場面を3つだけ選ぶ。たとえば「相手のサイドバックが上がってきたとき」「味方のCBがボールを持ったとき」「自分が背後を取られたとき」。その3場面を、外的イメージで1〜2分ずつ。慣れたら内的イメージに切り替える。90分を根性で埋めるより、この3分のほうが確実に効きます。
当時いちばん最後に書いていた「変更したいポジションの選手だけを追って試合を見る」という方法は、いまも有効なので残します。観る観点を決めておくと精度が上がるので、分析の記事の手順とあわせて使ってください。
転向して成功した選手は、いまどうなっているか
以前は5人の名前を挙げていましたが、誰が何から何へ変わったのかを1人も書いていませんでした。そして全員、当時とは状況が変わっています。2026年8月時点で確認できたことだけを表にします。
| 選手 | 2026年8月時点で確認できたこと | 確認先 |
|---|---|---|
| 長友佑都 | FC東京に在籍(DF・背番号5)。クラブ公式の選手一覧に掲載。契約更新の記者会見も公式に掲載されている | FC東京公式 |
| 森重真人 | FC東京に在籍(DF・背番号3) | FC東京公式 |
| 田中マルクス闘莉王 | 2019シーズン限りで現役引退(19年間でJ1通算395試合75得点/J2通算134試合29得点/国際Aマッチ43試合8得点) | Jリーグ公式 |
| 石櫃洋祐 | 2020シーズン限りで現役引退(京都サンガF.C.が2021年1月19日に発表) | Jリーグ公式 |
| 槙野智章 | 2022シーズン限りで現役引退(J1通算415試合46得点/ベストイレブン3回) | ヴィッセル神戸公式 |
正直に書きます。5人それぞれが「何から何へ、いつ、誰の判断で」変わったのかは、クラブ公式やリーグ公式の一次資料では確かめられませんでした。だから転向の経緯は書きません。名前を挙げて「成功例です」と言うだけなら誰でもできますが、それでは読んだ人が何も持ち帰れません。
代わりに、この表から言えることを1つだけ。田中マルクス闘莉王はDFとして紹介されながら、J1通算で75得点を記録しています。登録上の区分と、その選手が実際に試合でやっていることは、必ずしも一致しません。「ポジションを変える」と身構えるより、「自分は試合に何で影響を与えているか」を先に確かめたほうが早い。それを整理したのがプレースタイルの記事です。
確認できた範囲と、確認できなかったこと
確認できたこと。第3条の条文と「ゴールキーパーの入れ替え」の条件はJFAが公開している競技規則2025/26、イメージ技法の手順と時間は日本スポーツ振興センターの解説、5人の在籍と引退はクラブ公式とJリーグ公式の記載です。引用した当時の本文は、2016年の初出時のものをそのまま引いています。
確認できなかったことも書いておきます。
1つ目、ポジション変更の平均回数。統計が見つからないうえ、そもそも数え方が定義できないので書きません。
2つ目、5人の転向の経緯。公式の一次資料では確かめられませんでした。
3つ目、「このポジションからこのポジションへの転向は成功しやすい」といった傾向。根拠になる資料がありません。
4つ目、個人でやるイメージトレーニングと複数人でやるものの効果の違い。当時の本文は「個人かチームかで行うイメージトレーニングは、その得られる効果も異なります」と書きながら中身を書いていませんでした。違いを示す資料を探しましたが確かめられなかったので、その一文は落としました。
まとめ
「ポジションチェンジ」(試合中の入れ替わり)と「ポジション変更」(キャリアの転向)は、別の話です。
規則が定めているのは「11人以下、そのうち1人はGK」だけ。GK以外に区分は無く、GKと入れ替わるときだけ主審への通知が要ります(第3条)。JFAの登録区分もGK/DF/MF/FWの3つだけです。だから持ち場を捨てるほど重く考えなくていい。
提案が来たら理由を3つ聞く。どのプレーを見てそう思ったか、何を期待するか、いま何が足りないと思っているか。回数に上限は無いので、平均何回という数字は気にしなくていい。大事なのは1回ごとに理由を残すことです。
イメージトレーニングは90分ではなく、1〜2分から始めて5分程度まで。場面は3つに絞る。当時挙げた5人のうち3人はすでに引退し、2人はFC東京にいます。転向の経緯は一次資料で確かめられなかったので書きませんでした。


