ミスからの立ち直りを早めるメンタル面での対応

ミスをした直後って、なぜあんなに引きずるんでしょう。気持ちが弱いから、ではありません。立ち直りは気持ちの問題ではなく手順の問題です。そして手順は、ミスからどれだけ時間が経ったかで別物になります。

夕方のピッチで、ミスの直後にボールを見送って立ち尽くす選手の後ろ姿
ミスの直後。ここから数秒で何をするかは、あらかじめ決めておける。

まず結論:立ち直りは4つの時間軸に分けて考える

直後の数秒と、外されて数週間たった状態では、やるべきことがまったく違います。全体像は次の表のとおりです。

時間軸 やること やらないこと
①直後(数秒) あらかじめ決めておいた視線の置き場所と合図の言葉に戻る その場で原因を考える/自分を評価する
②試合中(数分) 興奮が高すぎるなら落とす、低すぎるなら上げる 味方や審判に矛先を向ける(規則上のコストが実際に発生する)
③試合後(当日) 感想ではなく手順のある振り返りをする 「メンタルが弱い」で終わらせる
④外された後(数日〜数週間) 評価の基準を分解して、次に見られる場所をつくる 起用理由を勝手に推測して結論を出す

①〜③は自分の頭の中の話ですが、④だけは他人の判断がからみます。だから最後に独立した節を立ててあります。

なぜミスの直後は立て直せないのか

根性の問題ではありません。興奮のレベルが上がりすぎると、パフォーマンスは物理的に落ちます。HPSC(ハイパフォーマンススポーツセンター)のメンタルトレーニング技法は、この関係をこう説明しています。

緊張や興奮のレベルが高すぎても低すぎても、パフォーマンスは低下します。緊張や興奮が高過ぎれば力みや焦り、注意散漫などにつながります

HPSC メンタルトレーニング技法

ここで効いてくるのは「注意散漫」のほうです。ミスをした直後に起きているのは、気持ちが弱ることではなく、注意が今のプレーから外れることです。さっきのシーンに注意が残ったまま次のプレーが始まるので、もう一度ミスが起きる。「引きずる」の正体はこれです。

では直後にやるべきことは何か。自分を励ますことでも反省することでもなく、注意を今に戻すこと。それだけです。

①直後(数秒):注意を戻す2つの技法

ミスの直後に顔を上げ、視線を前に戻す瞬間の選手
①直後(数秒)。見る場所と言う言葉を、試合前から決めておく。

HPSCは「ミスが続いた時や観衆など試合に直接関係ない事柄に注意が向いた時に、短時間で注意や集中を切りかえるための技法」として、次の2つを挙げています。どちらも試合前に決めておく必要があります。

  • 視線(フォーカルポイント)を定める:「○○を見たら集中」と、視線を向ける対象をあらかじめ決めておく。ゴールネット、センターサークル、自分のスパイクなど、そのピッチに必ずあるものにします。
  • キューワードを使う:狙いとする動作やこころの状態を引きだす「手がかりとなる言葉」。HPSCは例として「この1本に集中」「自分は自分」といった心の状態を表す言葉、「腕のふり」「○○を見る」など動作のポイントを表す言葉、「よし!いこう!」など気を引き締める言葉を挙げています。

実戦での組み立ては単純です。ミスをした→決めておいた場所を見る→決めておいた言葉を言う→次のポジションに走る。ここまで3秒。この間、原因は一切考えません。考えるのは試合後です。

古い自己啓発と分かれるのはここです。「前向きな言葉をかけよう」だけだと、その場で言葉を探すことになり、探している間に次のプレーが来ます。あらかじめ1つに決めておくから数秒で戻れる。動作を表す言葉(「腕のふり」)が有効なのは、気分ではなく体に指示を出せるからです。

「最高のパフォーマンスをした」と自分に言うのは逆効果になりうる

その場で「今の自分にできる最高のパフォーマンスをした」と自分に言い聞かせるのは、避けたほうがいい。事実と違う自己評価を、その場で自分に言い聞かせることになるからです。

直後に必要なのは評価ではありません。良かったも悪かったも保留して、注意だけを今に戻す。評価は③の振り返りでやります。

こうした技法を使うと立ち直りがどれくらい早くなるか、という数値は示されていません。効き方には個人差があります。

②試合中(数分):落とすのか、上げるのか

試合中、走りながら息を整える選手の横顔
②試合中(数分)。まず自分がどちら側に振れているかを決める。

数秒で戻れないときは、興奮の水準そのものを動かします。HPSCは「緊張・興奮が強い場合にはリラクセーション、弱い場合にはサイキングアップ」と、方向を分けています。自分がどちらなのかを先に決めるのがコツです。落ち込んで動きが止まるタイプが自分を落ち着かせにいくと、逆効果になります。

  • 高すぎる(力む・焦る)とき=筋弛緩法。HPSCが紹介している肩の方法は、①両肩を首につけるように8割程度の力を数秒入れる ②吐く息とともにストンと力を抜く ③肩から指先にじわーっと力が抜けた感覚を味わう。ミスの後に肩が上がっている選手は多いので、その場で1回やるだけでも違います。
  • 低すぎる(ぼーっとする・入っていけない)とき=サイキングアップ。HPSCは「からだの部位を軽く叩く」「大きな声を出す」「速く短い呼吸をする」などを挙げています。

呼吸法については試合中に冷静さを保つ方法の記事で詳しく扱っているので、ここでは繰り返しません。

③試合後(当日):「振り返り」を感想にしない

試合後のロッカーで、ノートに書き込んでいる選手の手元
③試合後(当日)。原因を考えるのはここから。

ミスの原因を考えるのはここです。ただし「なんであんなことしたんだろう」と頭の中で回すのは、振り返りではありません。

HPSCはクラスタリング法というパフォーマンス分析の手順を公開しています。用意するのはA3程度の台紙、付せん紙、筆記用具だけです。

  • 場面を1つ決める:練習ではなく試合。しかも一場面ではなく、試合を通して良かった競技成績を選ぶ。
  • 思い出す:目を閉じてリラックスし、3分ほどイメージする。こころの状態、身体の状態、コンディション、プレーの感覚、天候、会場、チームの様子、試合の展開、相手の様子まで。
  • 付せんに書き出す:1枚に1つ。順番は考えず、思いつくだけ。書ききったと思ったら試合の1週間くらい前までさかのぼってさらに書く。
  • 並べ替える:関連や順序を考えて付せんを動かし、線で結ぶ、グループで囲む。
  • 気づいたことを書く:ここで心身とプレーの結びつきが見えます。

気づきましたか。ミスの分析なのに、材料はうまくいったときの自分から取ります。失敗の原因を探すのではなく、うまくいっているときの条件を特定して、それを再現できるようにする。そういう考え方です。ミスばかり見ていると、再現すべき状態のほうが分からなくなります。

日々の振り返りについても、HPSCは「できなかったところだけでなく、できたところやその理由なども振り返るようにしましょう」と書いています。

試合の見方そのものは相手チームの分析と試合後の振り返りをまとめた記事に、体調の土台については睡眠と朝練を実データで検証した記事にそれぞれ書いています。

味方のミスを責める/責められたとき

ミスの話でいちばん多いトラブルは、実は自分の中ではなく人との間で起きます。ここは気持ちの話にせず、規則で確認できるコストから入ります。JFAが公開しているサッカー競技規則(2025/26)の第12条には、こう書かれています。

異議を示す、攻撃的、侮辱的、もしくは下品な発言や行動をとる、または言葉による反則を行う

サッカー競技規則 2025/26 第12条(間接フリーキックとなる反則)

「言葉または行動により異議を示す」のは警告となる反則です。これは競技者だけでなく、交代要員や交代して退いた競技者、さらにチーム役員(監督・コーチ)にも同じ規定があります。そして上の反則にあたる場合、相手チームに間接フリーキックが与えられます。つまり暴言はプレーの権利そのものを相手に渡す行為です。

味方を責めることの本当のコストは、ここです。声を荒らげた選手は、その直後に自分の注意も失っています(①で見たとおり)。チームは味方1人ぶんの集中を失い、状況によっては警告や間接フリーキックまで失う。誰も得をしません。

責められた側はどうするか。その場では①の手順に戻るだけです。言い返す・黙り込むのどちらも、注意が今から外れる点では同じです。話は試合後にします。

そしてこれは、大人が最初に知っておくべきことでもあります。JFAは「保護者の役割」のページで、はっきりこう書いています。

子どもたち自身が考え、感じ、判断し、プレーしたことを認めてあげてください。それがうまくいかなくても、決して責めないでください。失敗したことは十分にわかっています

JFA リスペクト・フェアプレー「保護者の役割」

失敗したことは十分にわかっています。ミスをした選手に足りないのは指摘ではなく、次のプレーに戻る手順です。JFAは「勝っても負けても大きな拍手。良いプレーには味方、相手関係なしに拍手」とも書いています。これはリスペクト・フェアプレーの考え方そのものです。

④レギュラーを外されたとき:数日〜数週間の話

ジャンパーを羽織り、ベンチから試合を見ている選手
④外された後(数日〜数週間)。ここだけは切り替えでは処理できない。

「外された」は試合中のミスとは違い、切り替えで処理できません。時間が長く、相手(監督)の判断がからむからです。

やってはいけないのは、起用理由を自分で推測して結論を出すこと。「監督に嫌われた」「あいつの方が上手いから」。どちらも確かめていない話で、確かめないまま結論にすると、次の行動が決まりません。監督が何を見ているかは、公表される情報ではありません。確かめる方法は一つ、本人に聞くことだけです。順番に分解します。

  • 1. 基準を聞く。「なぜ外したんですか」ではなく「どこを伸ばせば戻れますか」と聞くと、答えが行動になって返ってきます。感情の確認ではなく基準の確認です。
  • 2. 基準を数えられる形に割る。出場時間、守備で戻った回数、失った回数、直近の練習で通した縦パスの本数。数えられる形にしないと、良くなったかどうかを自分で判断できません。
  • 3. 見られる場所を用意する。紅白戦、練習の最初の15分、Bチームの試合。評価される場面は自分から取りに行けます。
  • 4. 記録する。③のクラスタリング法や日誌が効くのはここです。「外れていた期間に何が変わったか」を言える選手は、戻ったあとに落ちません。

規則の側から言えること:出番は思っているより残っている

推測を混ぜずに言える事実を2つ置いておきます。どちらも競技規則(2025/26)第3条に書かれています。

  • 公式競技会では最大5人の交代要員を使うことができ、交代回数は最大3回、これに追加してハーフタイムにも交代を行うことができます。ベンチにいる選手にとって、これは1試合に最大5枠あるということです。スタメンを外れた=その試合が終わった、ではありません。
  • もう1つ、意外に知られていない規定があります。交代して退いた競技者がもう一度出場する「再交代」は、各国サッカー協会などの合意の下、ユース、年長者、障がい者およびグラスルーツのサッカーにおいてのみ用いることが認められています。つまり育成年代の大会では、一度下がった選手がもう一度ピッチに戻れる場合があるということです。所属する大会の規定を一度確認してみてください。

「今日はもう終わった」と思った時点で、実際にはまだ残っている出番を自分で消していることがあります。

まとめ

翌朝、誰もいないピッチに置かれたボール
翌朝。手順が決まっていれば、次は数秒で戻れる。

立ち直りは、時間軸ごとに別の作業です。

直後(数秒)は、決めておいた視線と言葉に戻るだけ。原因は考えません。試合中(数分)は、興奮が高すぎるなら落とし、低すぎるなら上げる。方向を間違えると逆効果です。試合後(当日)は、感想ではなく手順のある振り返りを。材料はうまくいった試合から取ります。外された後(数日〜数週間)は、基準を聞いて、数えられる形に割って、見られる場所を取りに行く。推測で結論を出さないこと。

そして責めることには、規則上のコストが実際に発生します。味方にも、自分にも。

メンタルの話は3本に分けてあります。自信の積み方や日常の考え方といった土台は久保建英に学ぶメンタルの記事、頭に血が上ったときの試合中の平常心は試合中に冷静さを保つ方法、そしてミスの後は、ここで扱っています。自分がどういう選手なのかを一度言葉にしておくと、外されたときに基準を分解しやすくなります。それについては自分のプレースタイルを見つける記事に書きました。

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