子どもの前に立つ大人の契約を、クラブは一行でも書いているか

中学生だった頃、グラウンドに来ていた大人の顔を順に思い出してみる。監督とコーチのほかに、決まった曜日だけ現れる人がいた。キーパーだけを別の場所に連れて行く人、テーピングを巻く人、ボールの空気を入れて先に帰る人。全員まとめて「コーチ」と呼んでいたし、誰がクラブに勤めている人で、誰が別の仕事を持ったうえでその時間だけ来ていたのかなんて、一度も考えたことがなかった。

南アフリカサッカー協会が10月1日に出したお悔やみの文を読んでいました。U-20とU-23の男子代表を率いるレイモンド・ムダカ監督の弟エリックさんが、47歳で亡くなった。ムダカ監督は知らせを受けたあと、ベンチではなくスタンドで見たいと自分から申し出て、ブルームフォンテーンでのアルジェリアとの親善試合を客席から見ている。U-23は3-1で勝った。

引っかかったのは弔意の言葉ではなく、その下に事務の調子で置かれた一行のほうです。アシスタントのカラボ・モグディが、U-23キャンプの終わりまで引き継ぐ。モグディはその日もベンチにいた。誰が代わるのか、いつまでなのか。それが名前と期限の形で、同じ文章の中に収まっている。

大人が一人、予定になかった事情で現場を離れる日は必ず来る。そのときに次の名前を一行で出せるのは、ベンチにいる大人が何人いて、それぞれ何の役なのかが、外から見える形で先に並んでいるから。日本の育成年代で同じものを数えようとすると、その手前でつまずく。子どもの前に立っている大人が、どういう取り決めでそこにいるのかが、まず見えない。

「元業務委託契約スタッフ1名」という書き方

ロアッソ熊本が2026年8月4日に公表した文書に、その言い方が出てきます。アカデミーに所属していた元業務委託契約スタッフ1名が、在籍中の事案により逮捕された。クラブは事実確認と精査のうえで重大なコンプライアンス違反と判断し、2026年6月24日付で契約を解除した。関係者のプライバシーを守ることと二次被害を防ぐことを最優先にするとして、詳しい中身は出していない。憶測や個人の特定につながる発信、誹謗中傷を控えるようにとも書いてある。

事案そのものに外から足していい言葉はない。目が留まったのは、肩書きの頭に付いた「業務委託契約」という五文字のほうです。雇用ではなく、クラブと個人のあいだの業務の取り決めとして、アカデミーの現場に立っていた大人がいる。それが公の文書に書かれている。

これは一つのクラブの事情として読むものではないのではないかと。専門が細かくなるほど、この形になりやすい。キーパーだけ、フィジカルだけ、映像だけ、送迎の運転だけ。週に一度その時間に来て、その時間に帰る。子どもから見れば全員コーチで、そこに契約の線は引かれていない。保護者から見てもそう。グラウンドの横で見ている限り、正社員と、委託で来ている人と、学生のスタッフは、同じジャージを着て同じ笛を吹いている。

公表文には日付が二つ並んでいる。解除が6月24日付で、公になったのが8月4日。あいだの期間、そのカテゴリーの練習は止まっていない。誰かが代わりに立っていたはずだけれど、その人の名前は文書には出てきません。南アフリカの一行と比べたときに差が出るのはここで、日本のクラブが書いているのは別のものだった。

後半に並ぶのは、これから着手することのほう。外部の専門機関に入ってもらっての研修、服務規律と行動規範の確認、相談と報告の経路の見直し、管理監督の強化。そして個人一人の問題として閉じず、組織としての管理・教育の体制を検証する、と断っている。個人に帰さない、組織を点検する、二次被害を止める。この三つで組み立てる書き方は、子どもを預かる組織の文書として、国内の基準線になると思っています。

ただ、並んでいるのは全部これからの話で、いま現場に何人の大人がいて、そのうち何人がどういう契約で来ていて、一人抜けた日に誰が立つのかという現在の数は、どこにも出てこない。

名前と肩書きの、その先

Jクラブのアカデミーのページを開くと、スタッフの欄には名前と肩書きが並びます。監督、コーチ、ゴールキーパーコーチ。その先に、その人がどういう取り決めでそこに来ているかまで書いているクラブが、どれだけあるだろうか。書く義務はないし、個人の契約条件を晒せという話でもない。

それでも、週に四日子どもを預けている家庭が知りたいのは、たぶんそこに近い。この人は来年もいるのか。この人が来られない日は誰が来るのか。セレクションの案内には実技の時間も参加費も持ち物も書いてあるのに、入ったあとで子どもの前に立ち続ける大人の並びについては、クラブの外からは数えようがない。

アカデミーの体制強化という言葉が出てきたら、人数の多さではなくスタッフの欄を一人ずつ読み、名前の横に契約の形まで書いているクラブがいくつあるかを数えたい。

出典: www.safa.net(2026-10-01)

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