遠征の報告書に「契約」の二文字がないこと

クラブが出す海外遠征のレポートを、この夏もひと通り読んでいました。書式が驚くほど似ている。移動にかかった時間、現地でのトレーニング、テストマッチの結果、選手のコメント、最後に「刺激を受けた」。読み終えると、行った子たちが何を感じたかはよくわかる。ただ、どの報告にも一度も出てこない言葉がある。契約。

BBCが8月30日に伝えたのは、ガーナのアカデミーがイングランドに2か月半滞在していたという話でした。元ウェストハムのミカイル・アントニオが支援するサンバ・スターズが、EFLやノンリーグの下部組織と試合を重ね、その夏のうちにボーンマス、エバートン、マンチェスター・シティ、チャールトン、プレストン、バーンズリー、ピーターバラがトライアルで選手を受け入れている。ヘッドコーチのフレディ・オキエレは、プロへの実際の道をつくるためにアカデミーを立ち上げたと説明しています。ミッドフィルダーのリストウェル・ロード・ヒンネは2月にトライアルを経てミドルズブラに加入した。20人の遠征団のうち19人は、最初のビザ申請が通らなかった。

日本の海外遠征は「見せる」ためではなく「見る」ために組まれている

日本の育成年代にも、海外に出る機会は増えている。むしろ、ここ数年でかなり整った。ブラウブリッツ秋田のU-15Bは中学2年生のチームでドイツへ行き、羽田からハノイ経由で約30時間かけてフランクフルトに着き、着いてすぐトレーニングをしている。テストマッチは4試合で1勝3敗。最終戦は1対1の強度と速さで押し込まれた、と正直に書いてある。現地ではバイエルン・ミュンヘン対ヴィースバーデンを観戦し、多くの10代がプレーしていることに刺激を受けた、と結ばれています。

FC岐阜はU-18・U-15の8選手をKRC Genkの育成プログラムに送り、トップチームの練習を見学して、そこでプレーする伊東純也選手・横山歩夢選手と会っている。清水エスパルスのジュニアユースU-14は、Glicoの冠がついた国際親善マッチでバルセロナと対戦して1-3。徳島ヴォルティスのジュニアユースはポカリスエットの名前を冠したプロジェクトでベトナムへ行っている。JFAとアディダスのDREAM ROADは2023年度から続き、行き先はレアル・ソシエダード、バイエルン、フラム、リバープレート、アヤックス、コモ1907と広い。多くは1回4名。

調達の道筋もできています。Jリーグのアカデミー活動助成金、アカデミー専用のパートナー契約、自治体との包括連携協定、そしてコーディネート会社。この三つ四つが組み合わさるので、J1の大クラブでなくても海外遠征が組める。ロアッソ熊本はARkia株式会社と「クラブパートナー(アカデミー)」契約を結び、FC東京は品川区と包括連携協定を締結している。

ここまで整っていて、それでも、これらは全部「経験」の枠に収まっている。見学、交流、テストマッチ、観戦、そして帰国。FC岐阜の選手たちが挙げた「足りなかったもの」は、身体の強さ、パスとキックの精度、認知や判断の速さでした。高尾勇輝選手は一番足りないのはパスの精度だと言い、田中蓮人選手は自由さや発想力だと言っている。差分は正確に持ち帰っている。持ち帰らないのは、向こうのクラブが自分を欲しがるかどうかという返事のほう。

契約を取りに行く経路は、プロになった後にしか開いていない

日本の子が「契約を取りに行く」形で海外のピッチに立つのは、国内でプロ契約を結んだ後から。湘南ベルマーレの杉浦誠黎選手はU-18からトップに昇格し、同時にスペイン3部のサン・アンドレウへ期限付き移籍して、その期間が2027年6月まで延長されています。中山雄太選手は柏レイソルU-18から2015年にトップ昇格し、4シーズンを経て2019年1月にズウォレへ。順番が決まっている。まず国内でプロになる、それから外へ出る。

これは制度の設計として、ある意味では筋が通っている。日本の高校生年代の選手は、二重に属している。モンテディオ山形で2種登録された選手は東北文教大学山形城北高等学校に在学しているし、鹿島アントラーズの昇格選手は鹿島学園高校3年。高体連・クラブユース連盟・大学連盟という三つの統括団体があって、特別指定制度の目的文がわざわざ「種別や連盟の垣根を越え」と書いているのは、垣根が実在するから。学校に籍を置いた子が、夏の2か月半を海外のクラブ回りに使うという想定が、そもそもカレンダーに入っていない。クラブユース選手権U-15は8月14日から24日の10日あまりに全国が詰まり、全日本U-12の全国大会は12月26日から29日。夏も冬も、日本の子の予定は国内の大会で埋まっている。

代わりに日本が作ったのは、国内で早く出るための装置。2種登録は高校生年代のチームに所属したままJの公式戦に出られる仕組みで、特別指定は大学や高校に登録したまま受入先のJクラブの選手として出場できる。しかも特別指定の認定条件には「積極的に出場させる具体的計画」を持っていることが書かれていて、申請は毎週火曜正午締切、木曜認定という週次で回っている。特別指定で出た時間は、将来はじめてプロ契約を結んだときの締結条件の出場時間に加算される。2026/27シーズンにはU-21 Jリーグが始まり、東西のリーグラウンドで第1節が行われた。会場は川崎フロンターレなら麻生グラウンドで、全席自由席、鳴り物と声を出しての応援は不可。

だから日本は、出場時間を国内で作る方向にかなりの制度資源を投じてきました。そちらは相当に精緻。一方で、海外は「経験を買いに行く先」のままで、契約を取りに行く先にはなっていない。

どちらが良いかではなく、どちらも設計だということ

ビザが19人分いったん却下されて再審査で通った、という事実を軽く読まないほうがいい。契約を取りに行くという行為には、それだけの摩擦がついて回る。日本の子が同じことをやる必要があるとは思わない。

ただ、遠征の報告書が「刺激を受けた」で終わる形式に固まっていることは、一度は疑ってみたい。中2が30時間かけて飛んで1勝3敗を持ち帰る、その負荷に対して回収しているのが感想だけなら、割が合っているかどうかは検討に値する。KRC Genkに行った岐阜の選手が「認知や判断の速さ」を足りないものとして持ち帰ったなら、それを次の1年の練習設計に落とし込んだかどうかまでを、同じ書式で公表してほしい。海外に出た価値は、向こうで何を感じたかではなく、帰ってきてから何を変えたかに出る。

U-21 Jリーグができて、若い選手の出場時間は国内で作れるようになった。育成型期限付き移籍という受け皿もある。そのうえで海外に行くなら、目的は「見てくる」ではなく別のものになるはず。遠征の報告書に契約の二文字が入る日が来るのか、それとも日本は最後まで国内で完結させる設計を選ぶのか、そのどちらに寄っていくのかを、クラブが出す一枚一枚の告知から追っていきたい。

出典: www.bbc.co.uk(2026-08-30)

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