| 知りたいこと | 答え | 出典 |
|---|---|---|
| 特性要因図とは | 特性(結果)と要因の関係を系統的に表した図。石川馨(1915〜1989)が考案し、海外では Ishikawa Diagram と呼ばれる | 日本科学技術連盟 |
| QC七つ道具の中身 | 層別/パレート図/特性要因図/グラフ/チェックシート/ヒストグラム/散布図/管理図 | 同上 |
| 作るときの要点 | ★要因を並べるだけでは図にならない。「大骨」で分類する(4〜6本が適当) | 同上 |
| サッカーでの大骨 | 人/技術/判断・情報/環境・道具/チームの約束事 | 筆者による翻訳 |
「シュートがゴールに入らない」「ドリブルで相手を抜けない」「パスが思ったところに通らない」。サッカーの指導者なら、選手のこうした場面を毎日のように見ています。
スカウティングで対戦相手を分析するのは、どの指導者もやっていることです。ただ、同じ精度で自分のチームの選手を分析できているかというと、話は別です。試合を見てポイントを絞るだけで終わらせては、まだ分析とは言えません。次の練習や試合に活かして初めて、数字や図が意味を持ちます。
そこで使えるのが、製造現場の品質管理で磨かれてきた「QC七つ道具」です。品質のバラツキを抑えるために試行錯誤されてきた手法を、選手やチームの分析にそのまま応用できます。
QC七つ道具とは何か
日本科学技術連盟が公開している解説(PDF)によれば、QC七つ道具は「層別、パレート図、特性要因図、グラフ、チェックシート、ヒストグラム、散布図、管理図の8つ」で、「グラフと管理図を1つの手法としてとらえてQC七つ道具としています」。数えると8つあるのに七つ道具と呼ぶのは、このためです。
いずれも、品質管理のための実情データを分析する道具です。このなかで、サッカーの選手分析にそのまま応用できるのが「特性要因図」です。分析の対象はスカウティングのような対戦相手ではなく、自分が指導する選手たち。日々の練習や試合を管理し、分析し、改善して、次につなげます。
特性要因図とは:石川馨が考えたイシカワダイヤグラム
特性要因図は、英語では Cause and Effect Diagram、形が魚の骨に似ていることから Fishbone Diagram とも呼ばれます。ある事象(特性)に対する原因(要因)を、系統的に整理して結びつける図です。
日本科学技術連盟の解説(PDF)には、「特性要因図は、石川馨先生(1915〜1989)が考え出されたもので、海外では Ishikawa Diagram(イシカワダイヤグラム)といわれています」とあります。「その形から別名『魚の骨』ともいわれ、作り方が簡単で、しかもいつでもどこでも利用されるので、職場のQC手法の中でも多く使われている手法のひとつであります」とも。考案者の名前がついた呼び方まで含めると、呼び名は3つです。
同資料は特性と要因をこう定義しています。「私たちは仕事の結果をあらわすのに、不良率、工数、売上高などを用いています。このような結果をあらわす尺度となるものを総称して特性とよんでいます」「この結果に影響を及ぼす原因はいろいろ考えられます。この原因の中で、検討の対象として取り上げた原因を要因とよび、特性と要因との関係を整理して作った図を特性要因図といいます」。「特性」と「要因」、この2つの言葉の意味を押さえておくと、このあとの話が読みやすくなります。
「シュートが入らない」を要因で書き出してみる
サッカーに置き換えると、「シュートがゴールに入らない」「ドリブルで相手を抜けない」「パスが思ったところに通らない」といった課題や問題があるとき、その事象(特性)に対する原因(要因)は何かを探すことになります。
たとえば「シュートがゴールに入らない」という問題に直面したとき、色んな要因を考えてひたすら思いつくままに書き込んでみると、こうなります。
- 利き足ではない足でシュートした
- ディフェンスが見えていなかった
- シュートコースが甘かった
- シュートのタイミングが悪かった
- 余裕がなかった
- ゴールが見えていなかった
- 冷静ではなかった
- ゴール前で相手に競り負けた
- ゴールまでの距離を見誤った
- 軸足の置く位置が悪かった
- グラウンドが悪かった
- 最後までボールを見ていなかった
- シュートする角度がなかった
- ボールの下を蹴ってふかしてしまった
簡単に取り上げただけでも、これだけの要因が出てきます。自分が指導している選手が「シュートを外した」「ゴールが決まらなかった」場面をリアルに想像し、客観的になぜ決まらなかったのかを分析してみてください。ただし、要因を書き出しただけでは、まだ図になっていません。
大骨を立てる:要因を並べるだけでは図にならない
日本科学技術連盟の資料は、特性要因図の作り方を6つの手順で示しています。
- 手順1: 特性(問題点)を決める。何について作るのかを明確にする。
- 手順2: 特性を”悪さ”で表現する。特性を右に書き、左から右に向けて太い矢印(背骨)を記入する。
- ★手順3: 大骨を記入する。特性が起こる要因と考えられるものを4Mや5M1Eなどで大きく分類し、それを大骨として矢印で記入する。「大骨の数は4〜6くらいが適当です」。
- 手順4: 中骨、小骨を記入する。大骨ひとつずつについて要因を考え、さらに「それはなぜか」と考えて小骨、孫骨を入れていく。
- 手順5: 記入もれがないかをチェックする。因果関係が逆転していないかも確認する。
- 手順6: 影響の大きいと思われる要因に〇印をつける。選び方は「経験、技術などをもとに全員で協議して決める」か「データで確認して決める」。
4Mというのは、Man(作業者)、Machine(機械・設備)、Material(原材料)、Method(方法)の4つです。これに Measurement(測定)と Environment(環境)を加えたものが5M1Eです。製造現場の分類なので、そのままサッカーには使えません。筆者が置き換えたのが、次の5つです。
- 人:体の状態、疲労、成長段階、その日のコンディション
- 技術:蹴り方、体の向き、軸足、ボールタッチ
- 判断・情報:見えていたか、選択が適切だったか、情報を取る前にボールが来たか
- 環境・道具:ピッチ状態、天候、スパイク、ボール
- チームの約束事:そもそもその場面でシュートを選ぶ設計になっていたか
この5本を大骨にして、先ほどの14項目を分類し直すと、こうなります。
| 大骨 | 要因 |
|---|---|
| 人 | 余裕がなかった/冷静ではなかった/ゴール前で相手に競り負けた |
| 技術 | 利き足ではない足でシュートした/軸足の置く位置が悪かった/ボールの下を蹴ってふかしてしまった/最後までボールを見ていなかった |
| 判断・情報 | ディフェンスが見えていなかった/ゴールが見えていなかった/シュートコースが甘かった/シュートのタイミングが悪かった/ゴールまでの距離を見誤った/シュートする角度がなかった |
| 環境・道具 | グラウンドが悪かった |
| チームの約束事 | (14項目には1つも入っていない) |
分類してはじめて見えることがあります。この14項目は「判断・情報」に6つ、「技術」に4つ偏っていて、「チームの約束事」がゼロです。つまり、この書き出しは「シュートを外したのは本人の問題だ」という前提で作られている、ということです。大骨を先に置かずに要因を並べると、思いつきやすいところにばかり骨が集まります。これが、手順3を飛ばしてはいけない理由です。
もうひとつ、手順4の「それはなぜか」も重要です。「シュートコースが甘かった」で止めると、練習メニューが出てきません。なぜ甘かったのかを考えると、体の向きが作れていなかった、DFの位置を見る前に蹴った、利き足に持ち替える時間が無かった、といった理由が出てきます。ここまで降りて、はじめて明日やることが決まります。
いま使えるサッカーのデータ
サッカーの数値データは、いまは公式に公開されています。Jリーグが公開しているクラブスタッツでは、クラブごとの1試合平均走行距離、スプリント回数、パス数、ボール支配率などを見ることができます。2026特別シーズンのJ1では、1試合平均走行距離が最も多いクラブでチーム合計121km(セレッソ大阪/2026年2月10日更新時点)。11人で割ると1人あたりおよそ11kmです。
これがあると何が変わるか。特性要因図で「走れていなかった」を要因として挙げたとき、それが本当かどうかを数字で確かめられます。要因を書き出す(定性)と、数字で確かめる(定量)は、両方あってはじめて機能します。QC七つ道具が8つの手法をセットにしているのも、同じ理由です。
相手チームを分析する記事には、「何を見るか」と「見えたら何を変えるか」をセットでまとめています。特性要因図が「起きたことの原因を整理する」道具だとすれば、あちらは「これから起きることに備える」道具です。使う場面が違うので、両方持っておくと便利です。個々の選手の型を整理するならプレースタイルの記事もどうぞ。
選手を伸ばすために
特性要因図は、QC七つ道具のなかの最初の一歩に過ぎません。まずは、選手が抱えている課題の要因が何かを特定し、明確にすることが出発点です。
因果関係を整理すれば、より的確なアドバイスができるようになります。ただし、特性要因図だけで問題が解決するわけではありません。サッカーというスポーツに絶対的な答えはありませんが、確率の高い選択を積み重ねていくことで、できなかったことができるようになっていきます。
闇雲に練習を重ねるのではなく、整理された要因をひとつずつ、データを使って解決していく。それが、選手の成長曲線を正しい方向へ導く近道です。目の前の一戦に勝つことだけを考える指導の時代は終わりつつあります。選手を大成させるには、良き指導者の助言が欠かせません。
個の強さと、チームとしての勝つ力。その両方を、数字に裏づけられた根拠のもとで伸ばしていくこと。それが、いまの指導者に求められています。
