脳トレサッカーでサッカーが上手くなるかどうかはアナタ次第

筆者の知り合いでJリーガーになった人は、その大半が将棋に強かった。統計を取ったわけではありませんが、これはずっと変わらない実感です。

12年前、その実感を出発点に、将棋とサッカーをつなぐ知育ゲームや、当時話題になり始めていた「ライフキネティック」というトレーニング法について書きました。あれから12年、気になっていたことのいくつかには、もう答えが出ています。出た答えは出たと書き、たどり着けなかったことは、たどり着けなかったとそのまま書きます。

「どうぶつサッカー」は、たしかに発売されていた

きっかけは、あるニュースサイトの見出しでした。「どうぶつしょうぎ」に続いて「どうぶつサッカー」が登場した、というものです。

その商品は実在しました。発売元が2014年11月25日付で出した発表文が、いまも全文で読めます。

株式会社幻冬舎エデュケーション(代表取締役社長:中村晃一/東京都渋谷区)は、エイベックス・スポーツ株式会社(代表取締役社長:伊藤正二郎/東京都港区)によるプロデュースのもと、「どうぶつサッカー」(ゲーム考案:しんどうこうすけ/イラスト&デザイン:藤田麻衣子)を、11月28日(金)に全国の書店・玩具店にて発売致します。

幻冬舎エデュケーションの発表文(2014年11月25日・4Gamer.netに全文掲載)

イラストとデザインを担当した藤田麻衣子氏について、同じ発表文は「元女流棋士。「どうぶつしょうぎ」のイラストとデザインを開発」と紹介しています。将棋の盤面を子ども向けに翻訳した人が、そのままサッカーの盤面もつくったわけです。狙いも書かれていました。

本商品では、シリーズ累計70万部を売り上げた「どうぶつしょうぎ」(当社発売)のノウハウを生かし、サッカーに盤ゲームの要素を加えたことで、思考力・判断力・分析力が育つ頭脳スポーツゲームとなっています。

幻冬舎エデュケーションの発表文(2014年11月25日・4Gamer.netに全文掲載)

ただ、当時の筆者が食いついたのは、ゲームそのものではありませんでした。それを紹介していた記事に載っていた「データ」のほうです。

そのとき見た「データ」には、もうたどり着けない

そのニュースサイトは、読者に対して「子どもに『どうぶつサッカー』を遊ばせたい?」というアンケートを取り、結果を記事に添えていました。回答者のおよそ3分の1が興味を持っている、という読み方です。開発した側には物足りない数字かもしれないが、商売としては悪くない。そう感じたのを覚えています。

そのニュースサイトは、いまはもうありません。ドメインごと消えていて、たどり着く方法がないのです。

もっとも、数字は消えても残るものはあります。当時の筆者は「3分の1」という打率を、こう言い換えていました。キーパーは交わした。しかし角度がない。そのまま打つのか、切り返して角度をつくってから打つのか。迷えばチャンスは消える。サッカーでもビジネスでも、問われるのは判断の速さだ、と。数字の出どころは失われても、この読み替えはいまも手元に残っています。

将棋×サッカーは「よくあるパターン」だったのか

将棋とサッカーの思考は似ている。だからボードゲームや漫画が出ている——12年前からそう思っていました。実際に発売日を並べてみると、その直感は裏づけられます。

まず漫画です。秋田書店の「ナリキン!」は、月刊少年チャンピオンで連載された将棋とサッカーの作品でした。

性格最悪、おまけに運痴。だけど弱冠14歳にしてプロ棋士となった将棋の天才・成金歩。そんな彼がひょんなことから弱小サッカークラブの監督と出会って……!? 将棋×サッカーが奇跡のコラボ!!

秋田書店「ナリキン!」作品ページ

漫画は鈴木大四郎氏、監修は野月浩貴氏。第1巻の発売は2012年9月7日で、公式のシリーズページに並ぶ最終巻は2014年12月8日発売の第8巻です。筆者が同じ話題を書いてから5日後に、この連載は最終巻を迎えていたことになります。当時はまったく気づいていませんでした。

次にボードゲームです。学研の『頭のよくなるゲーム サッカーしょうぎ』(水沢三太&二三八 作)は2013年9月26日の発売で、対象は小学1年生から6年生まで。

サッカーのプレーをコマの動きに取り入れた将棋のようなボードゲーム。お互いに6つのコマを動かしながら、ボールをパスしたりドリブルしたりしてゴールを狙います。

学研出版サイト「頭のよくなるゲーム『サッカーしょうぎ』」

そして「どうぶつサッカー」が2014年11月28日。2012年、2013年、2014年と、3年続けて将棋×サッカーの商品が世に出ていたことになります。「よくあるパターン」という当時のざっくりした実感は、発売日を並べ直すと裏づけられました。

「2015年はあるか知りませんが…」に、答えが出た

横浜F・マリノスは「サッカー×将棋特別イベント」を開催している——12年前、そう書いたあとに「(2015年はあるか知りませんが…)」と付け加えていました。

答えは「ありました」です。Jリーグ公式が2015年7月2日付で、7月11日のモンテディオ山形戦にあわせて日本将棋連盟とのイベントを実施すると報じています。

波戸 康広アンバサダーと郷田 真隆王将による公開対局や、プロ棋士も参加する将棋体験コーナーなどが行われます。

また、人気漫画「ナリキン!」作者の鈴木 大四郎先生によるオリジナル描き下ろしコラボポスターがスタジアム内コンコースに掲示されます。

Jリーグ「【横浜FM】11日の山形戦で「サッカー×将棋」特別イベント実施」(2015年7月2日)

読み返して、少し驚きました。別々の話として書いていた「マリノスの将棋イベント」と「ナリキン!」は、翌年の夏、同じイベントで交わっていたのです。隣り合う段落に書いた話が7か月後につながるとは、当時は思ってもいませんでした。

一方で、確かめられなかったこともあります。12年前は「2013年から毎年1回ぐらい」開催されていると書きましたが、公式に確認できるのは、いまのところこの2015年7月11日の1件だけです。だから「毎年」とは言い切りません。

ライフキネティックとは、結局なんなのか

12年前の記事の後半は、当時話題になり始めていた「ライフキネティック」の話でした。長谷川望さんの記事から、こう引用しています。

「ライフキネティック」を取り入れる目的は、早い判断力を養うことにあります。サッカーではいろいろな情報を瞬時に判断していかければいけません。しかしその判断を身体で表現することで、はじめてサッカーに活きてきます。脳で感知した情報を、身体で表現するまでをスムーズに行えるようにするのが「ライフキネティック」トレーニングです。

夕刊フジ(zakzak)掲載の長谷川望氏のコメントとして、2014年の本稿旧版が記録したもの

この引用は、当時の文言のまま残しています。当時の記録に残っていた出典は夕刊フジというドメイン名だけで、記事そのもののURLは書かれていませんでした。いまとなっては当時の記事を特定できないため、出典の表記もその範囲にとどめています。原文の言い回し(「判断していかければ」)も、そのままにしてあります。

では、公式は何と言っているのでしょうか。ドイツ公認のライフキネティック日本支部は、目的をこう説明しています。

ライフキネティックは、神経細胞間に新しいつながりを作り出すことを促し〝眠っている〟能力を活性化します。

ライフキネティック日本支部「目的とは」

そしてトレーニングの組み立ては、次の3段階で説明されています。

情報を取得し(知覚)、その情報で判断し(認知)、実行(運動)する。

ライフキネティック日本支部「理論とは」

12年前に引いた長谷川氏のコメントと、公式の説明は、ほぼ同じ方向を向いています。「脳で感知した情報を、身体で表現するまで」という言い方は、知覚・認知・運動という3段階の言い換えとして読めます。

サッカーに絞った検証も出ています。ポーランドのクラクフにある体育大学のHenryk Duda氏が、2010年から2014年まで48人の若い選手を実施群と対照群に分け、実施群には週1回、年間サイクルに沿って合計75回のライフキネティックを組み込んだ、という調査です。

ライフキネティックメソッドは、プレーヤーの動きを知的な面からサポートし、サッカーのテクニカルトレーニング教育を後押しする。

ライフキネティック日本支部「<効果検証>若いサッカープレーヤーに、テクニカルアクティビティ―を教える過程でのライフキネティック導入における適用性について」

ただし、数字の扱いには注意が要ります。同支部の「科学的検証の一例」には、週1回60分を12週間以上続けた結果、子どもで97%、大人で91%が改善したという記述がありますが、これは450人を対象にした同支部自身のアンケート評価です。大学の研究として紹介されているものは、ミュンヘン連邦軍大学(2009年・学生30人)やケルン大学(2011年・9〜12歳の児童35人)など、いずれも被験者数の小さい調査でした。公式の資料をそのまま読む限り、「効果がある」と言い切るには規模がまだ足りません。期待しすぎず、頭ごなしに否定もしない。それが妥当な距離感だと思います。

12年前の心配に、公式の理論のほうが先に答えていた

12年前、筆者はこんな心配を書いていました。導入するクラブは増えるだろう。ただ、トレーニングの動作をひたすら繰り返して習得すること自体が目的になってしまい、肝心のサッカーに繋がらなければ意味がない、と。

この心配は当たっていたのでしょうか。公式の「理論とは」を読むと、答えは思わぬ形で返ってきます。

1つ1つの動作を完璧にできることが目的ではなく、挑戦することを重要と考えており、失敗を肯定的に捉えています。そのため、繰り返しの動作や練習を避け、常に新しい課題に挑戦し、達成できたら次のレベルの課題に移行することが重要です。

ライフキネティック日本支部「理論とは」

同じことは、プログラムの特徴としても書かれています。

特にこのプログラムの特徴的な部分は2つあります。1つは、楽しんで挑戦することに意味があり、失敗はとても良い事と考えていることです。2つ目は、脳の特定の機能や、特定の運動・内容を繰り返し行うのでなく、脳全体の機能を活性化する事を目指している点です。

ライフキネティック日本支部「期待できる効果」

つまり「動作を反復させて習得させる」という使い方は、ライフキネティックの理論のほうが先に否定していたわけです。当時の筆者は「言葉だけが独り歩きしている気がしてならない」と書きましたが、独り歩きしていたのは言葉というより、繰り返して身体に覚え込ませるという古い前提のほうだったのかもしれません。

そのうえで、当時の結論は変える必要がなさそうです。トレーニングを完璧にこなせるようになっても、トップスピードでトラップできなければ試合では使えません。サッカーは曲芸ではないからです。

日本サッカー協会も、JFAアカデミーの理念のページで、育成年代で獲得すべきことをこう並べています。

テクニック・判断力・持久力の向上・動きながらの技術・動きの習慣化・観る・判断する

日本サッカー協会「JFAアカデミー 理念・目的」

「観る」と「判断する」が、テクニックや持久力と同じ列に置かれています。サッカーは本能でプレーすることも大事ですが、前後半90分をフル回転で頭を使う競技でもある。冒頭で書いた「将棋に強い選手が多い」という実感は、12年たってもやはり変わっていません。

盤上のゲームも、ドイツ生まれのトレーニングも、頭を鍛える道具は12年で確実に増えました。ただ、道具はひとつも目的を肩代わりしてくれません。脳トレでサッカーが上手くなるかどうかは、結局それを何につなげるか次第です

判断そのものを鍛える具体的なメニューはスピーディな判断力を鍛えるドリブルトレーニングで、盤に向かう時間が取れない人向けの工夫は通学時間だけでサッカー脳を鍛える方法で扱っています。あわせてどうぞ。

評価 :5/5。